ロシア全土でクマによる人身被害が急増し、9月には少なくとも16人が死亡した。シベリア中部クラスノヤルスク地方を中心に、食料不足からクマが人里へ出没する事態が相次いでいる。専門家は、山火事による生息地の喪失や、人間が作り出す食料源が事態を深刻化させていると指摘する。
ロシア全土で相次ぐクマによる死傷事故
CNNの集計によると、ロシアでは9月だけで少なくとも16人がクマとの遭遇により死亡した。ロシア国営タス通信が当局の話として報じたところでは、例年の襲撃件数は20~30件程度だが、今年は40を超える地域でクマが人口密集地へ侵入している。特に被害が集中しているのはシベリア中部のクラスノヤルスク地方で、死者は7人にのぼる。同地方では自宅の外で襲われた51歳の女性や、キノコ採り中に行方不明となった高齢女性2人の死亡が確認されている。また、シベリア南部の観光地アルタイでも8月、テントを引き裂かれた29歳の女性がクマに引きずり込まれ殺害される事件が発生した。かつてシベリア中部に住んでいたソファさん(28)は、自宅の庭にクマが現れた映像を受け取り、「外に出るのを怖いと思ったことは一度もなかった」とCNNに心境を語った。
食料不足が引き起こす異常な接近
なぜクマはこれほどまでに人間に近づいているのか。ロシア科学アカデミー極東支部の動物学者セルゲイ・コルチン氏は、クラスノヤルスク地方など一部地域で状況が変化していると分析する。同アカデミー・カレリア研究センターのコンスタンチン・ティロネン氏は、今年の襲撃件数が年間平均を上回っていることを認めた。両氏が共通して指摘するのは、今秋の松の実やベリー類の「異例の不作」だ。冬眠を控えたクマは脂肪を蓄えるために活発な摂食行動をとるが、野生の食べ物が枯渇したことで、クマは生存のために人間が利用する場所へ踏み込まざるを得なくなっている。コルチン氏は、大規模な山火事による生息地の喪失もこの傾向を加速させていると説明する。
人間が招いた「食料源」と接触の増加
クマを人里へ引き寄せる要因は、自然環境の変化だけではない。ティロネン氏は、人間側にも責任があると強く指摘する。
- 生ごみが荒らされやすい環境であること
- 野生動物の生息地に採取産業が進出していること
- クマを引き寄せる魅力的な食料源を人間が作っていること
ティロネン氏は、「責任があるのはクマではなく、人間だ」と述べ、人間が管理する食料源がクマを人里へ誘引している現状を警鐘を鳴らした。クマは食べ物を探すため、どこへでも現れるようになっている。
新潟県の登山者も直面するクマの脅威
クマの出没は日本国内でも深刻な課題となっている。BSN新潟放送によると、新潟県では2026年度に669件の出没が記録され、2件の人身被害が発生している。6月に南魚沼市の丹後山でクマに襲われた服部岳洋さん(53)は、取材に対し「5メートル先に黒い影を見つけた」と当時の恐怖を語った。服部さんは咄嗟に大声を出したが、それが逆にクマを刺激し、牙を剥いたクマに右手を噛まれるなどの重傷を負った。服部さんは、クマ用スプレーをすぐに取り出せる場所に携帯していなかった点を反省点として挙げている。
専門家が呼びかける事前の防衛対策
クマによる被害を防ぐために、登山や入山時には万全の準備が不可欠となる。BSN新潟放送によると、服部さんは今回の被災以降、より大きな音が出るクマ鈴に変更し、スプレーをすぐに手に取れる胸元や腰に装着するようになった。新潟県は、秋はクマの活動が活発になる季節であるとして、ラジオや鈴などの音の出るものを携行することや、単独行動を避けるよう呼びかけている。服部さんは、「いつ出てくるか分からないという心構えで、しっかり対策をすることが命を守る鍵になる」と強調する。
クマが人里へ降りてくる状況は、今後も食料事情や環境の変化に左右される可能性がある。冬眠に向けた食料確保の必要性が続く中、人間と野生動物の遭遇をいかに回避するか、専門家の間でも対策の重要性が高まっている。現時点では、この異常な出没傾向がいつ沈静化するか、また来年以降も同様の事態が続くのかという点について、明確な見通しは示されていない。