福岡県みやま市では、特産品のミカン「北原早生」のブランド化成功を背景に、1次産業の担い手不足が深刻化する中で若い世代の就農が相次いでいる一方、市全体の人口減少や高齢化といった課題も浮き彫りとなっていることが分かった。.
ブランド化が牽引するみやま市のミカン農業
福岡県みやま市山川町の山あいに広がるミカン畑では、旬を迎えた早生の収穫作業が行われている。15年前にミカン農家を継いだ専業農家の北原正光さん(51)は、高校卒業後に会社員の道を選んだものの、2000年代に入り潮目が変わったと振り返る。地元農家が発見した突然変異種の「北原早生」は、高い糖度と色味の良さから人気を集めた。地域を挙げたブランド化が奏功し、首都圏の百貨店などで高値で取引されるようになったことが、就農の決め手となった。現在2ヘクタールほどで栽培する北原さんは、数年後には4ヘクタールへの大規模化を見据えている。
JAみなみ筑後が明かす若手就農者の現状
「稼げる農業」は着実に若者世代を呼び込んでいる。JAみなみ筑後(みやま市)によると、市内での40代以下のミカン就農者は2012年以降で50人近くに上る。後継ぎが多いものの、新規就農者も10人を超えている状況だ。「年収2千万円もざら。全ては頑張り次第。物価の高い都会で会社員として働くよりも夢があるのでは」。JA関係者は人気の理由をそう推し量る。北原さんも「長女(22)と長男(20)にも自信を持ってミカン農家を勧めたい」と語り、規模拡大に意欲を見せている。
市全体で進む深刻な人口減少と高齢化
もっとも、農業分野の明るい話題とは裏腹に、みやま市全体では人口減少と高齢化が深刻な課題となっている。瀬高、高田、山川の旧3町が合併してみやま市が誕生した2007年当時に約4万3400人だった人口は、この19年間で1万人減少した。65歳以上の割合を示す高齢化率は40.15%(4月1日現在)と県内60市町村で上から10番目で、筑後地区では唯一、40%を超えている。高田町で300年以上の歴史がある地域能楽「新開能」の保存会会長、境美近さん(69)は、「今は何とかなっているけど、5年後、10年後はどうなるか…」と危機感をあらわにしている。
多岐にわたる移住施策と縦割り行政の課題
人口減少にあらがうべく、市が力を入れてきたのは移住施策だ。市内でマイホームを取得する場合に最大55万円、市内の賃貸住宅に転入する世帯に1年間のみ最大24万円、新規就農者に最大30万円など、市独自の事業は多岐にわたっている。ただ、メニューが充実する一方、市の担当窓口は分散している状態だ。市総合政策課は取材に対して「移住者数の全体像は把握していない」と答えており、ある市議は「縦割り的で内容も複雑。効果を上げているとは言いがたい」と指摘している。
農産物のブランド化と一体的な政策遂行の行方
移住や定住につなげるためには、農産物のブランド化や企業誘致による雇用創出が欠かせない要素となっている。個別の施策に終わることなく、さまざまな政策に横串を通し、一体的に施策を進められるかどうかが問われている。人口減少や高齢化という構造的な課題に直面する中、市のトップには発想力と実行力が求められている。