ドナルド・トランプ政権は、連邦議会が国境警備や殉職者記念碑のために承認した予算を転用し、大統領自身を称賛するテレビ広告を放送している。この広告には少なくとも250万ドルが費やされており、野党民主党や一部の共和党議員、監視団体から「違法な宣伝活動」との批判が強まっている。
国境警備予算から2,000万ドルを広告へ転用
複数の関係者によると、この広告キャンペーンの資金源は、国土安全保障省(DHS)傘下の米国税関・国境警備局(CBP)に割り当てられた予算から捻出された。連邦支出記録によれば、これらの資金は本来、国境警備の強化や麻薬密輸対策、殉職した公務員の記念碑のために承認されたものだった。事態を重く見た民主党のパティ・マレー上院議員とクリス・マーフィー上院議員は、国土安全保障省のマークウェイン・マリン長官に対し、「納税者の資金を衝撃的かつ腐敗した方法で誤用している」と非難する書簡を送付した。
さらに、CBPのロドニー・スコット局長を含む上級幹部らは、この予算転用の意思決定プロセスから完全に除外されていたことが判明している。あるDHS当局者は、CBPの幹部らは報道を通じて初めて自局の資金が広告に流用されたことを知ったと証言した。上院民主党は、DHSがこの計画のために合計2,000万ドルを確保したと指摘しており、広告の即時停止と資金の返還を求めている。また、下院司法委員会のトップであるジェイミー・ラスキン議員とジョージ・ホワイトサイズ議員は、政府監査院(GAO)に対し、広告の全容解明と違法性の法的判断を求める調査を要請した。
「最終決戦」と題された広告と法的疑義
問題視されている広告の一つは、「最終決戦(The Final Battle)」
と題されたもので、2024年の大統領選挙中にトランプ陣営が使用した広告とほぼ同一の内容である。動画では、トランプ大統領が廊下を歩く姿とともに、「我々はディープステートを打ち破る。我々は共産主義者、マルクス主義者、ファシストを追放する」
といった音声が流れる。映像の最後には「米国政府によって支払われた(Paid for by the U.S. Government)」というテロップが表示されるが、2024年当時のオリジナル版には選挙キャンペーンのロゴと連絡先が含まれていた。消費者擁護団体「パブリック・シチズン」は、連邦通信委員会(FCC)および連邦取引委員会(FTC)への苦情申し立ての中で、これらの広告が「政府による宣伝活動」を禁じた連邦法に違反していると主張した。
ホワイトハウスは、これらのスポット広告を教育的な「公共広告(PSA)」であると主張し、過去の政権がメディケアや新型コロナウイルスワクチン接種を推進するために行った広告活動と同様の措置であると弁明している。ホワイトハウスのスティーブン・チェン通信部長は、自身のXアカウントで「我々の壮大な公共広告に対するフェイクニュースの嘘を許すな」と投稿した。一方で、法律専門家たちは、今回の広告が連邦職員の政治活動を制限する「ハッチ法」や、公的資金を政治宣伝に使うことを禁じた法律に抵触する可能性を指摘している。
トランプ大統領とFCC委員長の反論
批判に対し、トランプ大統領は10月1日の記者会見で、広告は政治的なものではないと主張した。
「皆さんは理解しなければなりません。私は候補者を宣伝しているわけではありません。私が立候補しているわけではないので、自分自身を宣伝しているわけでもありません。私は国を宣伝しているのです」 ドナルド・トランプ、大統領
大統領は、もし広告が不適切であると判断された場合には「喜んで費用を返済する」と述べた。この見解を支持するように、トランプ氏が任命したFCCのブレンダン・カー委員長は、今回の広告は「FCCによる審査に値するようなものではない」と語り、通常行われる公共広告と何ら変わりはないと一蹴した。カー委員長は「全く普通のことだ」と述べ、放送局側がこれらの広告を放送したことによる法的責任は生じないとの見方を示している。

共和党内からも上がる懸念の声
「素晴らしいメッセージです。私はそのメッセージが好きですが、税金で支払われるべきものではありません」
ジョン・スーン、上院共和党院内総務
他にもジョン・ケネディ上院議員らが、公的資金を自己宣伝に流用することへの懸念を表明した。これに対しホワイトハウスは、広告は「教育的で、言い訳の余地がないほど愛国的」であり、国民に国を愛する理由を思い起こさせるものだと強調している。しかし、議会民主党は、特別顧問室(OSC)に対しても調査を求めており、ハッチ法違反の可能性を追及する構えだ。現在、これらの広告が違法であると判断された場合に誰が責任を負うのか、また、議会が予算の転用を差し止めるための具体的な措置を講じられるのかについては依然として不透明である。トランプ政権は引き続き広告の放送を継続しており、今後の法的手続きや議会の対応が注目されている。