2026年10月10日、テキサス州ハリス郡のウェスト・ヒューストンにあるクレイ・ロード付近で、米国の移民・関税局(ICE)の捜査車両が男性をはねる事故が発生した。保安官事務所や連邦当局、および地元指導者らの発表によると、この衝突事故はICEが特定の人物を対象とした強制捜査を実施している最中に起きたものであり、現場付近の防犯カメラ映像や目撃者の証言、さらに当事者間の主張の食い違いをめぐって大きな波紋を呼んでいる。
クレイ・ロードでの追跡劇と衝突の発生
ハリス郡保安官事務所によると、2026年10月10日の午前7時20分ごろ、同郡内のクレイ・ロード付近で事件が発生した。米移民・関税局(ICE)の捜査官らは、逮捕状が出されている指名手配中の容疑者を追跡していた。ICEの発表では、対象となった運転手は白系のピックアップトラックを率い、ハイウェイ6号線の東行き車線で逆走を行うなどして逃走を図っていたという。
追跡の過程で、容疑者の運転していた車両は停止し、運転手と助手席に乗っていた同乗者の2人が車外に出て徒歩で逃走した。助手席にいたのは、メキシコ国籍の48歳であるミゲル・パラ=ヘルナンデス氏であった。助手席から逃走した同氏を拘束するため、ICEの捜査官が車両で接近し、建物付近で進路を塞ごうとした際に事故が起きた。
ハリス郡保安官事務所の特別捜査局を率いるアンソニー・マコーネル少佐が記者会見で説明したところによると、捜査官が容疑者の足止めを試みた際に乗客であるパラ=ヘルナンデス氏が車にはねられたという。事件後、衝突を引き起こしたICE捜査官自らが911に通報し、救急車の出動を要請した。現場にはハリス郡保安官事務所の deputies が急行し、負傷したパラ=ヘルナンデス氏の救急搬送と現場の検証にあたった。
映像証拠と当事者による主張の対立
事故の原因や状況をめぐっては、連邦機関側の公式説明と、現場周辺の防犯カメラが捉えた映像との間で大きな矛盾が生じている。ICEの広報担当者が発表した書面による声明では、「ICE捜査官が不法移民らを拘束しようと試みた際、ミゲル・パラ=ヘルナンデスがICEの車両の前に走り込んではねられた」と主張されている。

USA Todayによると、ICEの広報担当者は「パラ=ヘルナンデスがICEの車両の前に走り込んではねられた」と述べた。
しかし、ABC13やFOX 26ヒューストンなどの現地メディアが入手し公開したショッピングモールの防犯カメラの映像は、これとは異なる状況を示している。映像には、白いピックアップトラックから降りた2人の男のうち、パラ=ヘルナンデス氏がショッピングセンターの駐車場を走って逃げる様子が捉えられている。その直後、黒っぽい無印のSUVが駐車場へ侵入し、逃走する同氏をはねる瞬間が記録されている。

目撃者が匿名で語ったところによれば、現場からは「足を折られた、足を折られた」と叫ぶ声が聞こえたという。また、保安官事務所のマコーネル少佐は、パラ=ヘルナンデス氏が逃走に使用されていたピックアップトラックについて、警察が到着する前にICE捜査官が車両を移動させていた可能性があるとの見解を示している。保安官事務所側は、今回の現場検証における捜査の範囲はあくまでこの自動車衝突事故に限定されるとし、追跡に至るまでの経緯に関する質問についてはすべてICEへ差し戻す姿勢をとっている。
負傷者の容体と行方不明の運転手
車両にはねられたミゲル・パラ=ヘルナンデス氏は、救急搬送された病院で治療を受けている。保安官事務所および病院関係者の発表によれば、同氏は命に別状はなく、容体は安定しているものの、下半身の負傷、特に足に重い傷を負っている。地元の人権擁護団体FIELヒューストンの事務局長であるシーザー・エスピノサ氏が家族から得た情報によると、同氏は足の骨が3箇所で折れており、手術を受ける予定であるとされる。
負傷したパラ=ヘルナンデス氏は病院に収容された状態のまま、ICEの身柄拘束下に置かれている。当局によれば、同氏は不法に米国に入国した人物であるとされている。一方、彼と共に乗車していたもう一人の人物であり、今回の強制捜査の主要な標的であったホセ・メンドーサ=セルバンテス氏は、事件発生後も行方が分かっていらず、依然として逃走中である。
国土安全保障省(DHS)およびICEの発表によると、ホセ・メンドーサ=セルバンテス氏はメキシコ国籍の人物であり、裁判所から米国からの最終的な国外退去命令が出ていた。さらに、同局は同氏について、過去に酒気帯び運転(DUI)で4回逮捕された前歴があり、不法所持の罪でも逮捕歴がある「公共の安全に対する脅威」であると主張している。また、同局は、同氏がこれまで2回国外退去処分を受けながらも、不法に5回再入国を繰り返していたと主張している。
地元指導者による透明性の要求と広がる波紋
クレイ・ロードでの衝突事件を受けて、地元の政治家やコミュニティの指導者からは、連邦捜査機関の行動に対する強い懸念と、事件の徹底的な真相究明を求める声が相次いでいる。ハリス郡第4地区のレスリー・ブリオネス委員は、事件当日に自身の声明を発表し、強い衝撃を受けたと言い表した。
レスリー・ブリオネスは「ICEはハリス郡保安官事務所に全面的に協力し、この事件のすべてのビデオ証拠を公開しなければならない。我々は完全な透明性、説明責任、そして法の支配の尊重を要求する」と述べた。
ブリオネス委員のほかにも、ハリス郡検事のアビー・カミン氏が声明を出し、「迅速に事実を明らかにすることが極めて重要であり、市民には明確かつ正確な回答を受ける権利がある」と述べ、ICEに対してローカルな捜査への全面的な協力を求めた。さらに、連邦下院議員のシルビア・ガルシア氏や、ヒューストン市議会議員のレハンドラ・サリナス氏らもSNS等を通じて、ICEの単独の言い分だけをうのみにすることはできないと強調し、すべてのビデオ証拠の公開と徹底的な説明責任を強く要求している。