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2024-05-26 23:00:00
ソニーホンダモビリティ・代表取締役会長 兼 CEOである水野泰秀氏(右)。左は社長兼COOの川西泉氏。
撮影:伊藤圭
「(車両開発の)このスピード感は、従来の自動車会社からするとあり得ない」
ソニー・ホンダモビリティ会長 兼 CEOの水野泰秀氏は単独インタビューに対して、当初の開発速度を苦笑しながらこう語る。2022年10月の設立会見から、3カ月後の2023年1月には国際イベントでプロトタイプを展示する —— このスピード感は笑うしかなかったと言わんばかりだ。
同社は現在、バッテリーEV(EV)である「AFEELA(アフィーラ)」を開発中だ。2025年中にアメリカで受注を開始すると公表している。
ソニーとホンダがジョイントベンチャーを設立し、まったく新しいEVを開発するというプロジェクトも、2024年に入って「発売へのカウントダウン」が始まった感がある。受注をオンスケジュールで開始するなら、2024年度中にも最終版に近いプロトタイプが展示される可能性が視野に入るからだ。
実際のところ、ソニー・ホンダモビリティ(以下ソニー・ホンダ)におけるEV開発と組織づくりはどのように進んでいるのか。
今回、ホンダ側とソニー側、それぞれのトップの単独インタビューを通して、見え始めた開発の手触りを探った。
(聞き手・Business Insider Japan編集長 伊藤有、西田宗千佳 文・西田宗千佳)
水野会長「来年にはほぼ量産モデルをお見せできる」

2024年1月に開かれたトレードショー「CES2024」で展示されたAFEELAの2024年版プロトタイプ。
撮影:西田宗千佳
水野会長は「2025年の受注に向けて順調に進んでいる。来年にはほぼ量産モデルをお見せできるだろう」と開発状況を説明する。
ソニー・ホンダの合弁契約が交わされたのは2022年6月、正式に発足したのは同9月のことだ。一方、AFEELAの最初のプロトタイプが公開されたのは2023年1月。発足から公開までは半年もかかっていない。
水野会長は、本田技研工業(ホンダ)で中国本部長や四輪事業本部長といった要職を歴任し、ソニー・ホンダが立ち上がる直前にはホンダの専務執行役員を務めた人物。国内外の自動車業界は熟知している。
自動車の開発には時間がかかる。それゆえに、開発初期に実車に近いデザインを発表すると、発売時には飽きられてしまう可能性もある。実際、ホンダも過去、国産スーパーカーと呼ばれた「NSX」のデザインを早期に公開した結果、発売時には新奇性が薄れた……という反省があるという。
「でも現在は、発売3年前にデザインを見せ、そこから徐々に進化していくのもアリだな、と考えるようになりました。
一番やってはいけないパターンは、“プロトタイプと量産で全く違うものをお見せすること”。極端なことを言うと、数々の制約が生まれる量産モデルがつまらない形になるのは避けたかった。量産に向けて近づいてはいるものの、違和感なくコンセプトを保てています」
水野会長が語るこのエピソード自体、ソニーとホンダが一体になってモノ作りをすることの難しさを示している。
「ホンダがやらないようなこと」をする

AFEELAプロトタイプの内装。この時点では、ハンドル上部のない、いわゆるヨークハンドル形状で先進イメージをアピールしている。
撮影:西田宗千佳
一般論として、石橋を叩きながら数年かけて開発する自動車と、作りながら改善していくIT・センサー技術の開発サイクルは大きく異なる。両者の足並みを揃え、チームで開発に挑むことの難しさは想像に難くない。
だが、そうしたカオスな環境から新しい自動車を作ること自体が「ソニー・ホンダモビリティ」を作った目的だ……水野会長の言葉からはそんな意図が透けて見える。
水野会長はカルチャーの異なる2社でのEV開発について、
「(互いの)違いを認め合うことは、なかなかしんどいところも正直あるわけですよね。(ソニー側の)川西さんから見れば『なんでこんなに時間がかかるの?』と思うところはあるでしょう」
と、2社のアプローチの違いを率直に、しかし前向きに語る。
「でも、『どんどん先へ行こう』という彼ら(ソニー)の考え方は、非常に刺激になる。ソフトウェアを中心としたソニーと、ゴリゴリに(自動車の)ハードウェアをやってきたホンダが一緒になって、“ホンダがやらないようなこと”をどんどん取り入れていくことが大事だと考えています」

撮影:伊藤圭
AFEELAについては、EVのベースとなる部分についてはホンダが開発してきた車両設計技術を使いつつ、車内エンターテインメントやセンサーを使った機能などはソニー側からの提案を活かす形で開発がスタートした。
発足時は約200人だった従業員は、現在300人あまりにまで増えた。
当初は両社から出向などの形でノウハウを持つ人員がソニー・ホンダに入ってきていたが、現在はソニー・ホンダが直接雇用し、両社を経ずに参加した社員も増えているという。全体としては、ホンダ側、ソニー側が混ざり合った混成組織で、AFEELAの開発は進んでいる。
「変われなかったら、このゲームには生き残れない」という危機感

撮影:伊藤圭
企業カルチャーの大きく異なる企業が、一体になる挑戦を選んだ理由はある種の「危機感」からだ。
水野会長はこんなエピソードを明かす。
「ソニー側から『なぜこんな分厚いオーナーズマニュアルが付いてくるのですか』と言われたことがあります」
オーナーズマニュアルには、自動車を運転する上で注意すべき操作の全てが記載されている。そこには車種固有の情報だけでなく、シートベルトの基本的な使い方まで、あらゆることが載っている。
付属していても、分厚くて全部は読まないという人は少なくない。
「品質を担保するためにどんどん分厚くなっていったのです。現在ならデジタル情報になっているから、自分の欲しいところだけを得られる。それこそ、YouTubeの動画でもいい。iPhoneにはもうマニュアルもないですよね」
クルマ作りにおいても、「原点に帰らなきゃいけない」と水野会長は語る。
ちょっとしたことに思えるが、マニュアルひとつをとってみても「自動車メーカーの速度」と「ITの速度」の違いがある。
例えば、競合にあたるテスラは国内においても、既に納車時の説明すらない。いわゆるディーラーもなく、オンラインで購入するだけだ。自動車という「商品」売り方自体も、過去の売り方とは変わり始めている。
「(テスラのような売り方は)それでもお客さんはアクセプト(受け入れる)してるわけです。(車両の使い方説明は)YouTubeを見ればわかる、などということに気付いていないのはメーカーだけかもしれない」
一方で、テスラや新興の中国メーカーは、自動車メーカーでありながら、ITの速度感で進んでいる。
水野会長はホンダ時代に2010年から約10年間、中国に赴任し、中国本部長などを歴任するなかで中国企業のモノづくりを間近に見てきている。そこで感じた危機感は、まさに「新興のライバルとの速度感」だ。
「ITのスピード」で自動車を作る中国勢にどう対処するのか。そのためのソニーとの合弁であり、AFEELAの開発……ということなのだろう。
「安心・安全を担保しつつ、技術的に負けないものを、どう早く世の中に出すのか。今回の(ソニーとホンダの)ハイブリッドみたいなやり方というのは、ひとつの解ではないかと思います」
詳しくは次回のインタビューで述べるが、川西社長も「中国勢の自動車の作り方は日本とは異なる」との認識を語る。
自動車メーカーに染みついたカルチャーを変え、新しい会社で新しい自動車作りに挑むために、トップである水野会長と川西社長は、毎日のように議論を交わしている。
「時には二人で言い合いになることもあります。でも、それで僕は良いと思っていて。ガチガチに議論しないと良いものは生まれてこないし、ホンダも変われると僕は思っているんです。
変われなかったら、ダメなんです。生き残れない、この(100年に一度という自動車変革の)ゲームには」
AFEELAが目指す「ソニーとホンダが作るEV」の姿

撮影:西田宗千佳
ではAFFELAはどんなEVになるのか? 水野会長は次のように説明する。
「ガジェット層というか、アメリカ風に言えばギークのような、こだわりの強い人々に向けて勝負していきたいと思っています。ホンダ車の最高の乗り味を取り入れつつ、オーナーが自分で遊び倒せる、押し付けでない車にしたい」(水野会長)
AFEELAの正面、バンパーの上部には「メディアバー」という大型のスクリーンがある。このスクリーンは外部企業とも「共創」し、購入者がカスタマイズできるようになるという。また、ドアロック音なども変更可能になる。

グリル部分にある「AFEELA」のロゴが表示されている部分自体がスクリーンになっている。自由にいろいろな表示にカスタムできる。
撮影:小林優多郎
これら以外にも色々な仕組みが用意されるようだが、すべての要素は明かされていない。そこはまさに、ITの速度感で開発が進められている部分でもある。
懸念すべきは、世界的なEV減速ではない
2023年まで欧米では急速なEVシフトが進んでいたが、今年に入ってから強い揺り戻しも起きている。
水野会長は「少々レバレッジ(てこ入れ)が効きすぎたかもしれません。ただ、普及までの時間軸はズレるかもしれませんが、BEV(電気自動車)の時代は必ず来る」としつつ、EVの普及が減速しつつあるとも言われる市況よりも、「むしろ気になるのは、経済面の減速」と分析する。
またAFEELAが「売れる」ための重要な要素として、水野会長は意外なものを挙げた。「EVの中古価値をいかにつくるか」という問題だ。
バッテリーの消耗や技術の進化など、テスラも含めたEVは既存のエンジン自動車に比べ、売却時の価値が下がりやすい傾向にある。しかし、自動車の中古価値が下がることはオーナーの資産価値が下がることでもあり、EVを選ぶことに対するブレーキになりかねない。
水野会長は「価値を維持するためにも、(何らかの施策を)意志を持ってやっていかなくてはいけない」と説明する。EVの中古価値を維持するには、サポート体制を含め、メーカー側が「中古価格を維持する施策」を整備し続ける必要がある。が、当然それには投資が必要だ。
ただ、初の車両の開発を進めるなかで、当初から「中古価格」の維持・創出を販売戦略として検討し始めているというのは、自動車業界の知見ならではだろう。
自動車メーカー的価値観から離れ、スーツからカジュアルへ
ソニー・ホンダとしての色を出すという意味では、技術以外のエピソードもある。
襟なしのシャツにジャケットというカジュアルなスタイルで取材に対応する水野会長だが、ホンダ時代はスーツにネクタイが当たり前だった。
今、ソニー・ホンダ従業員は、多くがカジュアルスタイルで勤務している。「ブランド価値の変化はそういう(日常の所作の)部分からも出てくる」という意識からだという。
「ホンダ時代は、部下にも『ネクタイをしなきゃダメだ』と言っていたくらいなのですがね。SHMに来てスタイルを変えました」と水野会長は笑う。
ある関係者は、「配属当初はスーツ姿だった人も、徐々にジャケット姿からシャツ中心に、革靴からスニーカーに代わっていくのが面白い」と従業員がソニー・ホンダになじんでいく風景を口にした。
モノづくりの発想を変えるということは、マインドを変えるということだ。「服装から変えていく」ということもまた、自動車メーカー的な価値観から脱するために、トップが選択した1つの方策だ。
(5月28日掲載の「ソニー・ホンダモビリティ川西社長編」に続きます)
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