ベル・テキストロン社は2026年7月、イギリスで開催されたファンボロー航空ショーにおいて、アメリカ陸軍の次期汎用ヘリコプターとして正式採用された「V-280 バロー」の実物大模型を展示した。型式名「MV-75」、愛称「シャイアン」が付与されたこの機体は、主翼両端のローターを可動させるティルトローター機であり、先代のV-22「オスプレイ」の運用実績から得られた数々のノウハウが設計に反映されている。
V-280バローが実現した飛行性能と任務への期待
MV-75は、機体上部にメインローターを持つ従来のUH-60「ブラックホーク」とは異なり、主翼の両端にローターを備える設計を採用している。このローターを垂直に向けてヘリコプターのように離着陸させ、水平に倒すことで飛行機のように前進する仕組みだ。これにより、速度はブラックホークの約2倍にあたる時速約550km、航続距離も約2倍の約3900kmを実現している。アメリカ陸軍は、武装した兵士を輸送する長距離空挺攻撃任務での運用を期待している。初飛行は2017年12月に行われ、長年の試験を重ねたのち、2022年12月に次期汎用ヘリコプターとして選定された。その後、2025年5月にMV-75の型式名が与えられ、2026年にはシャイアンの愛称が加えられている。
オスプレイとの決定的な違いであるエンジン不動の仕組み
MV-75の最大の特徴であり、V-22「オスプレイ」との決定的な違いは、エンジンとメインローターの動きにある。オスプレイがエンジンごとローターを90度回転させるのに対し、MV-75はエンジンを主翼に固定したままローターだけが角度を変える構造をとる。重いエンジンを可動させないことで回転機構を簡素化し、整備性の向上や製造時間の短縮につなげている。さらに、着陸時にエンジンの排気が真横ではなく後方へ流れるため、胴体脇のドアから兵士が出入りする際の安全性が高まるというメリットも生まれた。まさにオスプレイの運用現場から得られた教訓が、この設計へと結びついている。

ファンボロー航空ショーで展示された実物大模型の全貌
イギリスのファンボロー航空ショーで公開された実物大模型は、オスプレイよりも一回り小さいサイズとして設計されていた。搭載できる兵士の人数もオスプレイの半分ほどにあたる14人となっており、主翼とメインローターが不釣り合いなほど大きく見える外観が特徴的である。しかし、ブラックホークの後継機として位置づけられているだけに、機首から胴体後部にかけてのラインはUH-60に似た印象を受ける作りとなっている。胴体両脇の乗降ドアや機体内部のレイアウトについても、従来のヘリコプターとほとんど変わらない実用的な設計が踏襲されている。
ヨーロッパの次世代計画と今後の世界展開への影響
今回の実物大模型の展示は、ヨーロッパで進められている「次世代回転翼航空機(NGRC)」計画での採用をベル・テキストロン社が視野に入れているためと見られている。同社は計画に直接名乗りを上げていないものの、NATO支援調達機関と調査契約を結んだイタリアのレオナルド社と協力関係を築いている。この計画にはエアバス社やロッキード・マーティン・シコルスキー社なども契約に参加しており、今後の採用を巡る行方はまだ不透明な状況にある。しかし、ティルトローター機の先駆者であるオスプレイの輸出が日本にとどまったのに対し、MV-75は世界中で広く採用されているブラックホークの後継機という圧倒的な立場を持っている。
ブラックホーク後継機としての確実なポジション
世界各国の軍で運用されてきたベストセラー機の後継という背景により、MV-75はこれまでのティルトローター機とは異なる有利なポジションを獲得している。もしNATO諸国をはじめとする各国でこの機体が採用されれば、ティルトローター機という航空機のカテゴリーが世界へ一気に普及する契機となる可能性がある。ファンボロー航空ショーにおける今回の展示は、ベル・テキストロン社が抱くその市場参入への強い意欲の表れにほかならない。型式名が与えられ愛称も定まったMV-75が、今後の防衛装備品市場でどのような実用化への歩みを進めるのか、航空関係者の視線が集まっている。