科学&テクノロジー

「NASA」が「ニール・ゲレルズ・スウィフト天文台」を救う

6月 30, 2026 / nipponese
太陽活動による軌道低下と「10月の臨界点」

NASAは2026年7月1日、地球の大気圏に落下しつつあるニール・ゲレルズ・スウィフト天文台を救出するため、ロボット宇宙機「LINK」を搭載したペガサスXLロケットをマーシャル諸島から打ち上げる計画です。このミッションは、民間企業のKatalyst Space Technologies社が開発した機体を用いて、貴重な観測資産をより高い安定軌道へ押し上げ、運用寿命を延ばすことを目的としています。

太陽活動による軌道低下と「10月の臨界点」

2004年11月に打ち上げられたニール・ゲレルズ・スウィフト天文台は、ブラックホールの誕生や超高密度星の衝突に伴うガンマ線バーストという、宇宙で最も強力な爆発現象を追跡する重要な役割を担ってきました。しかし、この観測装置は現在、深刻な高度低下に直面しています。

低地球軌道(LEO)を周回するすべての衛星は、大気抵抗によって徐々に高度を下げますが、2024年に発生した強力な太陽活動(太陽極大期)がこのプロセスを加速させました。太陽フレアや太陽嵐によって地球の大気が加熱され、膨張したことで、衛星が直面する「向かい風」のような抵抗が増大したためです。

NBC Newsが報じたNASAの予測モデルによれば、スウィフトの高度は10月までに臨界点とされる185マイル(約297km)を下回る可能性があります。また、ABC(オーストラリア放送協会)は、救出作戦を成功させるには高度300kmを維持する必要があると伝えています。

Katalyst Space社の「LINK」による救出メカニズム

今回の救出作戦の主役は、アリゾナ州を拠点とするKatalyst Space Technologies社が構築したロボット宇宙機「LINK」です。この機体は、もともと軌道上での整備を想定して設計されていなかったスウィフトを物理的に捕捉し、牽引することを目的としています。

LINKの仕様と作戦フローは以下の通りです。

  • 機体構成: 高さ約4.9フィート(1.5m)、3本のロボットアームを装備。各アームの先端には、レゴのミニフィギュアのような指状のピンチグリッパーを備えている。
  • アプローチ: 打ち上げ後、2〜3週間かけてスウィフトを観察し、最適な捕捉ポイントを特定する。
  • 軌道上昇: 捕捉後、穏やかなイオン thrusters(イオン推進機)を使用して、数ヶ月かけて現在の360kmから目標の600kmまで軌道を上げる。

この作戦の難易度は極めて高く、Katalyst Space社の関係者は成功の保証はないことを強調しています。しかし、NASAは昨年9月に同社と契約を結び、迅速な対応を求めました。

「正直に言って、これが可能になるとは誰も思っていませんでした」
Ghonhee Lee, Katalyst Space Technologies CEO

コスト効率と「宇宙の救急車」という新戦略

今回のミッションで注目すべきは、その圧倒的なコストパフォーマンスです。スウィフト天文台は2004年当時の価格で3億ドル(約450億円)の価値がある資産ですが、今回の救出費用はわずか3,000万ドル(約45億円)に抑えられています。

ペンシルベニア州立大学の天文学・天体物理学教授であるJohn Nousek氏は、NBC Newsへのメールの中で、この成功がもたらす戦略的意義を次のように分析しています。

「科学的な成果に加えて、軌道上での整備を想定していなかった衛星を回収できるという新能力は、NASAや他の顧客に対し、新規ミッションのわずかな分の一のコストで、既存の宇宙機の再利用、寿命延長、あるいは機能追加を行う能力を与えることになるでしょう」
John Nousek, ペンシルベニア州立大学教授

また、Katalyst Space社のGhonhee Lee CEOは、この技術が将来的にハッブル宇宙望遠鏡のような、より大型で同様に高度低下のリスクを抱える観測装置の救済に適用できる可能性を示唆しています。

「NASAには多くの重要な大型天文台があり、そのすべてがこのようなサービスの恩恵を受けることができます。このミッションで証明しているのは、これが利用可能な新しいプレイブック(戦略)になるということです」
Ghonhee Lee, Katalyst Space Technologies CEO

ペガサスXLロケットによる「最後の飛行」

LINKを軌道に乗せるため、ノースロップ・グラマン社のL-1011 スターゲイザー機から空中放出される「ペガサスXL」ロケットが使用されます。このロケットは1990年のデビュー以来45回のミッションを完遂しており、今回の飛行が最後になると見られています。

Space.comの報告によると、ペガサスが選ばれた理由は、スウィフトの低軌道傾斜角(赤道に対して20.6度)に到達できる柔軟性と、時間的余裕がない中での迅速な展開が可能だったためです。

当初は6月30日の打ち上げが予定されていましたが、天候不良により延期されました。最新のスケジュールでは、7月1日午前5時43分(米国東部時間)にマーシャル諸島のクェジャリン環礁から出撃します。

今後の展望とリスク

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