警視庁は、SNSなどを通じて一般人を犯罪に引き込む「闇バイト」への注意を強く呼びかけています。今年1月から6月までに、警視庁がSNS上で闇バイト募集とみられる投稿に対して行ったリプライ(返答)件数は3万4225件に達し、前年同期の5090件から7倍近く急増しました。特殊詐欺や強盗の実行犯を調達する「匿名・流動型犯罪グループ(トクリュウ)」の手口は巧妙化しており、若年層のみならず中高年層も被害に巻き込まれています。
SNSを通じた勧誘とリプライ件数の急増
犯罪グループは、X(旧ツイッター)などのSNSを悪用し、「短時間で高収入が得られる」といった甘い言葉で実行役を募集しています。警視庁はこうした投稿を監視し、直接リプライを送る形で注意喚起を強化していますが、その数は増加の一途をたどっています。令和4年から5年にかけて発生した、いわゆる「ルフィ」と称する指示役らによる広域強盗事件以降、闇バイトの脅威は全国的に知れ渡りました。しかし、応募を促す募集投稿は後を絶たず、警察当局による監視と犯罪組織による勧誘のいたちごっこが続いています。
中高年層にも広がる闇バイトの関与
闇バイトに関与する層は、かつての若年層中心から拡大しています。警視庁が令和6年10月から今年7月末までに保護した闇バイト関与者の内訳を見ると、40代が6.1%、50代以上が13.6%を占めており、中高年層が全体の約2割に達しました。警察庁が令和7年中に特殊詐欺の受け子となった少年を調査したところ、59.6%が「知人等からの紹介」をきっかけに犯罪へ関与していました。対面での勧誘や、知人を通じた紹介という手法が、年齢を問わず一般人を犯罪の入り口へと引きずり込んでいます。
「断れない」環境を作り出す巧妙な心理戦
警視庁生活安全総務課の岡野雅史管理官は、闇バイトに関与する者の特徴について、「全くお金がないというよりは、安直に稼ごうというところから入る者が多い」と分析します。実際に、10代の男性が知人から「仕事を手伝ってほしい」と誘われ、待ち合わせ場所で複数の男たちに囲まれて「携帯電話の契約」を強要されるといった被害も報告されています。犯罪グループは、人的関係を悪用して逃げ場を塞ぎ、恐怖心から断れない環境を作り出しています。一度関与すると、自身の顔写真や実家、交際相手の個人情報を共有させることで脱退を防ぐ脅しが常套化しており、被害者は抜け出せない状況に追い込まれます。
エスカレートする犯行と重い代償
闇バイトの実行役は、最初は軽い気持ちで応募しても、次第に重大な犯罪へと引きずり込まれます。ルフィグループが東京都狛江市で起こした強盗致死事件のように、複数の事件に関与を重ねるうちに人命を奪う事態に発展するケースも少なくありません。強盗致死の法定刑は死刑か無期懲役であり、一度手を染めれば人生を大きく狂わせることになります。岡野管理官は、「犯行のさなかには、『やっても捕まらない』という犯行グループ側の感覚を信じ込んでしまう」と指摘し、ずるずるとエスカレートしていく危険性を警告しています。
「高額・即金」のキーワードには要注意
バイト募集の文言には明確な危険信号が含まれています。警察庁は「高額」「即日即金」「ホワイト案件」といったキーワードを掲げる募集には警戒するよう呼びかけています。また、窃盗を意味する「ルパン」に由来するとみられる「R」などの隠語や、「テレグラム」のような匿名性の高い通信アプリへの誘導も、犯罪グループ特有の手口です。もし、こうした怪しい勧誘を受けた場合、あるいは既に深入りしてしまった場合は、身の安全を確保した上で、早急に警察へ出頭・相談することが推奨されています。
地域と学校で進める防犯教育の重要性
今後の課題として、警視庁は小学校などでの防犯講話を通じて、早期からの意識付けを進めています。岡野管理官は「普段の会話の中で、犯罪の話を持ち込ませない雰囲気をつくることが重要だ」と説き、家庭や地域社会での防犯意識の向上を促しています。犯罪組織は、一度でも関与した者に対して、自宅へのパトロールなどを行うことで圧力をかけ続ける傾向があります。人生をやり直すためには、一刻も早く警察の保護を求め、組織との関係を断ち切ることが唯一の道です。今後も警察は、トクリュウの摘発とともに、勧誘の入り口を塞ぐための啓発活動を継続していく方針です。