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2026-02-06 20:30:00
2月8日に投開票が迫った、第51回衆議院議員総選挙。票を投じる候補者選びを考えるうえで、「人は思ったよりも『印象』に左右される」という、人の認知バイアスをめぐる興味深い研究がある。
選挙ポスターや演説での政治家の「顔」「声」といった非言語情報に着目し、有権者の投票行動を分析する研究が拓殖大学(東京都文京区)で進んでいる。
ルッキズム(外見至上主義)などが問題視される中、データに基づき「有権者心理」を研究する、拓殖大学政経学部の浅野正彦教授(実証政治学)と岡田陽介教授(政治心理学)を取材した。

選挙公報・ポスター対象に「笑顔度」「美顔度」調査
「あの企業は絶対、顔採用しているよね」
大学生(2027年卒)の就職活動が本格化する中、企業説明会に参加したと思しきリクルートスーツ姿の学生が電車内で友人たちとこんな会話をしているのを1月末ごろ、目撃した。企業が実際に容姿で学生たちを選定しているかは不明だが、政治の世界では見た目が一定程度影響する、と語るのは浅野正彦教授だ。
浅野教授は選挙ポスターや選挙公報を用いて、政治家の顔を「笑顔度」「美顔度」という2つの指標に分けて分析。有権者の投票行動との関連性を調べた。

このうち笑顔度は、衆議院選挙の「選挙公報」(1996〜2021年)と、「選挙ポスター」(2024年)に掲載された約1万人の候補者の顔写真を、最小値を0(真顔)、最大値を1(満面の笑み)とし、専用の解析ソフトやデバイスを用いて定量化。性別、年齢、当選回数、所属政党(与党か野党か)、世襲か否かといった候補者の属性に、選挙区定数を加えて笑顔が得票数に与える影響をそれぞれ分析した。
2024年の選挙ポスターを分析した事例では、笑顔の女性候補は、笑顔を示さない(真顔な)女性候補と比べて11.45ポイント、笑顔の男性と真顔な男性では2.37ポイント、それぞれ得票率が高かった。
選挙管理委員会が配布した過去の選挙公報に掲載されている画像を基にした分析を含めても、男性よりも女性の候補者が笑っていた場合の方が得票率が高くなる傾向にあった。

次に浅野教授は候補者の容姿と得票数の関係に着目した。2013年と2016年の参議院議員選挙(比例代表を除く)に出馬した494名の候補者について、朝日新聞社が撮影した候補者の顔写真を購入。1415人のアメリカ人に顔写真を一枚ずつ見せ、「美顔度」を5段階(美顔でない〜美顔)で評価してもらった。これ以外に、候補者の顔から判断される有能そうか、信頼できそうかなど7つの顔の「印象」も5段階で評価してもらった。
加えて、表情解析デバイスと表情解析ソフトを使用して、494名の候補者の笑顔度や怒り度など7つの顔の「表情」を定量化。性別や当選回数、所属政党、選挙区定数や立候補者数といった要素を統計的に統制して分析した。
その結果、顔の「美顔度」が1ポイント上昇するごとに、5.16ポイント得票率を増やしていることが判明した。美顔度5の人と美顔度1の人を比較した場合、単純計算で約20ポイントも得票率に差が生まれることになる。

実際、アメリカ人が選んだ「美顔度」上位10人と下位10人(どちらも当選回数が0回もしくは1回)を選び、日本人有権者2875人に「どちらの人について知りたいか」と尋ねたところ、美顔度の数値が同じ候補者同士では差がほとんど出なかった。一方、美顔度が高い候補者と低い候補者で比較すると、約8割の有権者が美顔度が高い候補者を選んだ。

「ビジュアル重視で候補者選びをしている政党もある」
笑顔度と美顔度という2つの指標から導き出される結論は実にシンプル。
男性にしろ女性にしろ、笑顔で顔が整っている候補者の当選確率が高まる。雑な言い方をすると、我々有権者は政策や実績をもとに投票したと思っていても、少なからず「美人」や「イケメン」候補者に引っ張られている可能性があるということだろう。
浅野教授は「小選挙区で高齢のベテラン議員に、そこそこの学歴や経歴があり、ビジュアルがいい若手候補者を対抗馬として擁立すると十分戦える可能性がある。一部の政党はそれを認識して、意図的にそのような候補者選びをしているようだ」と指摘する。

ただ、笑顔度や美顔度の影響度は「初期の新人か2回目(の当選)まで。当選回数を重ねると、知名度や人気度も絡んでくるため、笑顔やビジュアルはさほど関係なくなる」(浅野教授)とも語る。
「性別で見ると女性候補者が笑った方が戦略的により票を取れる。日本人は『こうあるべき』と結構“べき論”が強い国民性で、『公約や政策で判断するべき』と分かっていながら、結果的に美顔度が高いイケメンや美女の候補者に投票していることが分かった。
ルッキズムが批判されがちな昨今だが、それとは真逆の結果が出た点がこの調査の最も興味深いところだ」(浅野教授)
ケネディ勝利の陰に「テレビ映り」
浅野教授は、顔と投票の関係性について最も有名な事例として、1960年のアメリカ大統領選挙を挙げる。アイゼンハワー政権で8年間副大統領を務めた共和党候補リチャード・ニクソン(47)に、若手上院議員だったジョン・F・ケネディ(43)が民主党候補として挑み、僅差で勝利した。
ケネディ勝利の要因の一つが「テレビ映り」だったとされている。米国史上初めてテレビでも討論会が放送されたこの大統領選で、ケネディの健康で若々しい外見が有権者の支持を集め、史上最年少で大統領選を制した。

今後の研究について浅野教授は「美顔度の研究を通じて、イケメンや美女の方が当選する可能性が高まるということまでは分かったが、それはあくまで相関関係であり、因果関係ではない。なぜ有権者が笑顔や美顔の候補者に投票するのか、メカニズムを詳しく解明したい」と語る。
候補者を「好ましい」と感じる要素が、実は公約や主義主張ではない非言語的な要素が関連している ── こうした研究は他にもある。「声」だ。
#人は想像以上に雰囲気で投票している候補者の容姿声質が投票行動に影響心理研究で紐解く衆院選2026 #Business #Insider #Japan