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2025-09-16 12:00:00
連載
ドイツの「これでいい」暮らし
ドイツで暮らして7年になる。暮らし始めて間もない頃、ある出来事に衝撃を受けた。ドライヤーを23時頃にかけていたら、「これが数回続いたら警察を呼ぶ」と同居人に言われたのだ。
日本でも、夜遅い時間に掃除機をかけることは避けるべきとされているし、特に都住宅街や都心部などでは静かであることが重要視されている。
しかしながら、ドライヤーひとつで警察まで持ち出されたことにとても驚き、「静かさ」に対する感覚の違いについて考えるきっかけとなった。
ドイツの「休息時間」ルール

ドイツには“法律で守られた静けさ”があることを、ドライヤーの件があったすぐ後に知った。代表的なものが「Ruhezeit(ルーエツァイト、休息時間)」という考え方だ。州によっても異なるが、夜から朝までの一定の時間が法的にRuhezeitとして定められている。日曜日もRuhetag(休息日)と呼ばれ、この間の「静けさ」が法律で保障されているのだ。
例えばハンブルクでは、夜20時から翌朝7時の間にベランダで電動ドリルを使えば、すぐに近所から注意されるか、場合によっては通報されて最大5000ユーロの罰金を科されることもある。庭の芝刈り機や洗濯機の音すら対象になり得る。
「静かな場所」を分ける

対比して、日本の電車内でのマナーなども思い出してみると、その「静けさ」の守り方に違いがある。例えば日本では、電車内でのおしゃべりは許容されていても、電話に関してはマナー違反とされる。JR東日本のアナウンスを例に挙げても、「マナーモードに設定の上、通話はご遠慮ください」と、乗客側に配慮を促す措置が取られている。これは、電車内でも会話をしたい人と、電車内では静かに過ごしたいという人の双方に配慮した形と言えるだろう。
対してドイツでは、基本的には電話をしていても咎められることはない。スマートフォンでイヤホンなどを使わず、スピーカーから音を出して動画を観ている人なども多く見かける。しかしながら、電車の車両の中に「Ruhebereich(ルーエべライヒ、静音車両)」というものがあり、そこでは大きい声での会話すら禁止されている。静かにしたい人向けのエリアが明確に分かれており、好みや状況にあわせて使い分けることができるようになっているのだ。
ドイツでは「子どもの声は騒音ではない」

興味深いのは、ドイツの「静けさのルール」にも例外があることだ。それは子どもの声である。ドイツでは、国の法律で「子どもの遊び声は騒音ではない」と明確に定められており、公園でのはしゃぎ声や、集合住宅の中庭でのボール遊びの音が大きくても、それを理由に苦情を申し立てることはできないのだ。実際判例としても「子どもの騒音は、度を越したものでない限り、我慢するべきもの」と棄却されており、社会全体で「子どもの成長に必要な音」として受け止め、守っていることが分かる。
対して日本では、集合住宅での子どもの足音や声は、しばしば「騒音トラブル」の対象になりがちだ。近年では「子どもの声がうるさいから」という理由で保育園の建設反対の運動が起こるケースも珍しくない。もちろん日本でも子どもを大切に思う気持ちに変わりはないのだろうが、「静かに暮らしたい」という要望とはどうしても折り合わず、衝突してしまうのだろう。
それぞれの「音との付き合い方」

こうして比べてみると、どちらの国も“静けさ”を大切にしているが、その守り方が大きく違うことが見えくる。日本では「周囲に迷惑をかけないように」という内面的な規範が人々を律し、場の空気を読むことで静けさが保たれているケースが多いと感じる。夜遅くに洗濯機を使ったり、アパートで子どもが走り回ったりすると、「ご近所にどう思われるかな」とつい気にしてしまうものだ。
ドイツでは「権利としての静かさ」が法律で定められており、時間帯さえ守れば多少の音を出しても問題ない場合も多い。その代わり、静かな時間や静かな場所がしっかりと切り離され、ルールとして明文化されている。日本とドイツ、両方を行き来する中で、「音との付き合い方」には、それぞれの社会が大切にしているものの違いが映し出されているのだと感じている。
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