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2025-08-22 08:30:00
- Z世代を中心とした、夏場のビール離れと、ミネラルウォーター需要の高まりが、同時に起こっている。
- そんな変化する夏季経済の新たな脅威が「猛暑インフレ」だ。猛暑は、食料価格の高騰を誘発する。
- インフレ対策といえば利上げだが、日銀はなかなか追加利上げに動けない。その状況が異なる懸念を生じさせそうだ。
今年の夏も暑い。気象庁によれば、今年の7月は統計開始以来最も暑い月となり、全国平均気温が平年比 +2.89℃ 高かったという。8月に入っても、全国各地で40℃前後の異常な高温が続出している。
猛暑による経済効果はよく話題になるが、ひと昔前よく言われたのが「猛暑になるとビールの売上が伸びる」説だ。確かに、真夏にキンキンに冷えたビールを飲みながらプロ野球のナイターをみる、というのが夏の風物詩だった。
しかし、データで見ると、よく言われる通り、夏場のビールの消費量は長期的には減少傾向にあり、20年前と比べて半分強まで減少した(図表1)。この背景には、税率引き上げの影響や健康志向の高まり、少子高齢化などがあると見られる。

Z世代は水でクールになる夏
代わって、新たな夏の定番となりつつあるのがミネラルウォーターだ。ビールと比べれば金額は小さいものの、20年前と比べて夏のミネラルウォーターの消費金額は2倍に増加している。
特にZ世代など若年層の夏場のミネラルウォーター需要が高まっているようだ。日本インフォメーション株式会社の調査によれば、10~20代の男女のミネラルウォーター等の飲料水の購入頻度は全体平均よりも高くなっている。サントリー食品インターナショナル株式会社の調査によれば、若年層の健康・美容意識の高まりや、水分補給、熱中症対策への意識の高まりがある。
なお、夏場に限った話ではないが、ミネラルウォーター市場は長期的に着実に増加している。一般社団法人ミネラルウォーター協会の統計によれば、この20年で国産ミネラルウォーターの生産は3倍強だ。Z世代の関心を惹きつけるような取り組み(国内初の紙パックミネラルウォーターやプラスチックフリーの缶入り水など)も出てきており、ミネラルウォーター市場の熱気は今後ますます高まっていきそうだ。
猛暑インフレが今年も到来する公算
ミネラルウォーターは興味深いミクロ的な事例だが、マクロ経済の観点からは、猛暑による食料価格の高騰、すなわち「猛暑インフレ」が家計の脅威となっている。
猛暑インフレとは、端的に言えば、猛暑によって食料の生産が減少し、食料価格が高騰することだ。実際、物価の動向を表す総務省「消費者物価指数」(様々な品目の価格を調査)の「食料」の項目をみると、2000年代から傾向的に夏場の価格上昇率が高まっている(図表2)。

猛暑インフレの一例として、昨年夏以降から社会的関心を集めている「令和のコメ騒動」を思い浮かべる方が多いだろう。今年の新米も猛暑による収穫量減の懸念が報じられている。
価格が変動しているのはコメだけではない。例えば、キュウリやトマトなどの定番夏野菜も今年は収穫量が減少しているようだ。また、豚や鶏の夏バテにより、豚肉価格や卵価格も高騰している。
今年8月までの食料価格の上昇率は、8月分の消費者物価指数が公表される9月19日まで待たないとはっきりとはわからない。が、価格上昇率は昨年よりもまた一段と伸びると予想される。猛暑インフレで家計の食卓が厳しい状況はまだ続くだろう。
なお、本日発表された7月のCPIについては、電気代を主因に前年比の伸びは減速したが、食料価格は前年比+7.6%と前月からむしろ加速した。コメ価格がようやくピークアウトの兆しがでてきた一方で、野菜や菓子類などの価格上昇は続いた。やはり今年の夏も食料インフレは続きそうだ。
猛暑インフレは日銀を動かさない
同様に悩ましい状況になっているのが日本銀行だ。
金融政策の判断にあたっては、FRB(米国連邦準備制度理事会)の金融政策や米国経済、トランプ関税等の様々な検討事項がある。しかし、日本の物価は食料価格にけん引されてG7トップクラス(英国に次ぎ2番目)の上昇率だ。そのため、食料価格も同等に重要な鍵となる。
セオリーで言えば、金融政策の目的は物価安定のため、日本銀行は物価上昇抑制のため利上げすべきようにもみえる。現状の物価の伸びは日銀の目標である2%を大きく上回る3%で推移しているからだ。
にもかかわらず、なぜ日銀はすぐに利上げを実施しないのか? という点について、疑問を持つ読者の方も多いだろう。この理由は、日本銀行は食料価格の上昇は天候不順に起因するため一時的と評価しているからだ。
現在の物価上昇のうち約半分は食料価格の影響だ。今後食料価格が落ち着く前提(他の条件は不変と仮定)であれば、物価の伸び率は徐々に低下して目標の2%を下回る見通しだ。そのため、日銀は次の利上げに対して慎重姿勢なのだろう。
とはいえ、前述したように、今年も猛暑インフレが到来している。日本銀行の「このところの米などの食料品価格上昇の影響が徐々に減衰していく」との見立ては楽観的なように映る。
日銀の本当の懸念は消費下振れ
仮に、筆者の懸念通り猛暑インフレで物価の高止まりが続いたとしても、日銀の食料価格への政策対応は変わらないだろう。日銀は食料価格上昇による個人消費の下振れ、すなわち景気悪化リスクをより警戒していると筆者はみている。
実際、7月の金融政策決定会合後に公表された展望レポート(日本銀行の経済や物価に関わる現状判断や見通し)において、日本銀行は個人消費の現状評価を少し引き下げた(注)。この背景として、コメなどの食料価格上昇により消費者の節約姿勢が強まっている点が言及されている。
(注)4月時点では個人消費を「緩やかな増加基調を維持している」と判断していたが、7月には「底堅く推移している」に判断をやや下方修正した。
食料は生活に欠かせないため、価格が上昇したとしても消費者が極端に支出を削ることは難しい。ポイント活用やより安いブランドへの変更などの努力をしても限界がある。そのため、生計が苦しくなって旅行や外食、娯楽などへの支出を減らさざるを得なくなる。結果、日本経済の屋台骨である個人消費が下振れし、景気は悪化してしまう。
景気悪化のリスクを重んじるのであれば、食料価格が高騰する中での利上げは景気に追い打ちをかける。利上げが悪手となるリスクがある以上、日本銀行は食料中心の物価高に対してはますます動きづらい。
懸念される食料価格上昇と円安の悪循環
もともと食料価格上昇を促す猛暑などの天候要因は、日銀のコントロール外のため、金融政策で対応することは困難だ。日銀が食料価格上昇への対応として利上げを選択するのに非消極的なのは当然とも言える。
ただ、筆者は以下のような悪循環を懸念している。食料価格上昇(それに加えてトランプ関税なども)による景気下振れリスクを重視して、日本銀行が次の利上げに慎重となれば、為替レートでは円安地合いが続くだろう。この円安は輸入品の食料価格を押し上げ、個人消費の下押しとなる。
そうなれば、日銀の追加利上げは一層難しくなり、円安がまた進む。円安が進めばまた食料価格が……という悪循環が起こりかねない。
※寄稿は個人的見解であり、所属組織とは無関係です。
※本記事は取材対象者の知識と経験に基づいて投資の選定ポイントをまとめたものですが、事例として取り上げたいかなる金融商品の売買をも勧めるものではありません。本記事に記載した情報や意見によって読者に発生した損害や損失については、筆者、発行媒体は一切責任を負いません。投資における最終決定はご自身の判断で行ってください。
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