1749805410
2025-06-13 08:30:00
- 超長期金利の上昇が、財政悪化の深刻な予兆かとニュースで話題になっている。
- だが、財政悪化は他国でも懸念されており、日本だけが特別に不安視されるものではない。
- むしろ、超長期金利の上昇は、今後の長期金利上振れの可能性も示唆し、より生活に身近な金利にも影響を及ぼす。
「超長期金利」がニュースで話題になっている。Googleトレンドで調べると、直近5年間で今年6月の検索数は過去最高近辺だ。超長期金利がこれほど話題になっているのは珍しい。
というのも、一般の生活者にとって、超長期金利は馴染みが薄いからだ。これが、ただの「長期金利」ならば一般的に10年物国債利回りのことを指し、住宅ローンの固定金利に連動する傾向がある。そのため、特に住宅ローンを保有している人、また住宅ローンの申し込みを検討している人にとっては、気になるトピックに違いない。
加えて、短期金利は期間の短い金利のことを指し、これも住宅ローンの変動金利に連動することから、多くの読者がすでに知っていることと思う。住宅ローンの変動金利は短期プライムレート(通常は半年~1年未満)と連動し、日本銀行が金融政策決定会合で決定する短期政策金利に連動する。
住宅ローンに馴染みはなくとも、日本銀行の金融政策決定会合はニュースで大きく取り上げられることも多い。そのため、短期金利については、すでによく知る読者も多いはずだ。
超長期金利とは、一体なにか?
それでは超長期金利とは、一体どの期間の金利のことなのか?
長期金利の前に“超”という文字が付されていることからもお分かりいただけるだろう。超長期とは、すなわち「10年以上の期間の金利」のことを指し、たとえば20年物、30年物、40年物の国債利回りのことを指すのだ。
住宅ローンの平均期間が30年前後とはいえ、この長期間に渡る金利のことを普段から気にしている人は、債券市場の関係者でない限り、あまりいない。個人で国債を購入している人もいると思うが、現在の個人向け国債の最長期間は10年だ。そのため、20~40年物の超長期国債の利回りは直接的には関係ない。そこまで見ている人は少数派と思える。
それではなぜ、この超長期金利がここまでニュースで話題となっているのか? 財務省のデータで、たとえば30年物国債利回りをみると、確かに金利水準は過去と比べてもかなり高くなっている(図表1)。
図表1:30年物国債利回りの推移

しかし、重要なのは10年物国債利回りとの乖離だ。通常、金利は期間が長ければ長いほどリスクプレミアムが大きくなるため、10年物国債利回りよりも20年、30年、40年の方が、利回りが高くなる傾向がある。そのため、超長期金利と長期金利の乖離(スプレッドとよく言われる)が大きくなれば、それだけ超長期ゾーンの金利がそれ以下の年限よりも上昇していることを意味する。
これを確認すると、乖離幅は過去最高だ。これは、足下の超長期金利の上昇幅が他の年限以上に大きいことを意味する。要するに超長期金利の上昇ペースが他の年限よりも大きいため、話題になっているということだ(図表2)。
図表2:30年物国債利回りと10年物国債利回りの乖離

超長期金利が上昇するシステム
とはいえ、単に他の年限よりも上昇しているだけでは、ここまで話題とならない。おそらく話題沸騰の理由は、財政赤字拡大への懸念が取り上げられているからだ。
日本では7月に参議院選挙が予定されており、与党の苦戦が報じられている。そのことから、選挙対策として財政出動となる給付金や減税などの政策公約が話題だ。
また、米国のトランプ大統領が防衛費拡大を世界に要求するとの見方が強まっており、日本も当然、その対象になることが想定されている。こうした時勢もあり、財政赤字拡大懸念が高まっていることが超長期金利の上昇に表れているのではないか? との見方が一部に出ている。
多くの人が関心の高い財政の問題と絡んでいるため、一般ニュースでも取り上げられるのだろう。ちょうど、石破首相が5月19日の参院予算委で「日本の財政状況は間違いなく極めてよろしくない、ギリシャよりもよろしくない状況だ」と述べたこともあり、財政への注目度が集まっている状況でもあった。
では、財政赤字拡大懸念が超長期金利の上昇に結び付いているのはなぜか?
まず財政赤字が拡大すれば、政府はその分を国債発行増額で補填する必要がある。それは国債の供給が増えることを意味し、需要(国債への投資)が一定と仮定すれば、需給が緩んで国債の価格が下落、すなわち金利が上昇する要因と捉えられる。
特に、日本の財政状況は少子高齢化に伴う社会保障費の負担増が長期に続くとの不安もあり、財政赤字拡大懸念はより期間の長い国債の需給に影響すると見られやすい。そのため、財政赤字拡大懸念が高まれば、景気の状況や日銀の金融政策が相応に影響する10年までの期間の金利よりも、超長期ゾーンにより影響が出やすいとも考えられる。
さらなる財政悪化の予兆なのか?
では、この超長期金利の上昇は、日本の財政状況が今後さらに深刻に悪化する予兆なのか?
もちろん厳しい状況が続くことに変わりはないが、現在の財政赤字拡大懸念はグローバルで意識されていることであり、日本の財政”だけ”が特別に不安視されているわけではないと筆者は見ている。実際、米国やドイツ、英国などの主要先進国の超長期金利も上昇傾向にあり、日本もそれに連れられている面がある。
少し専門的な話になるが、金融市場で企業や国の債務不履行リスクがどの程度意識されているかを見る上でよく参照されるのがクレジットデフォルトスワップだ。それを見ても、むしろ米国の方が上昇していることが話題となっているような状況だ。ただしクレジットデフォルトスワップはあくまでも短期的なリスクを図っているに過ぎない点は付記しておく。
日本の財政悪化懸念は常に抱えている問題ではあるが、足下で注目を集めている理由は、7月の参議院選挙という国政選挙があるためで、選挙による一時的な変動(アノマリー)という面もある。与党がこれまで以上に苦戦を強いられる可能性があることでなおさら、意識されやすい。
とはいえ、冷静にみれば、財政見通しが2025年になって突然さらに暗くなってしまっているとは言い切れない。たとえば、IMFの4月見通しでは、日本の債務残高は236%から2030年は231%に改善する予測を出している。もっとも、改善幅は小幅であり、その比率は依然として厳しい水準であることに変わりはないが。
なお、紙幅の関係で詳細は割愛するが、財政悪化懸念以外で超長期金利を押し上げる要因としてより重要なのは、以下3点だ。
- 主要投資家である生保の規制対応需要が一服
- 世界的なインフレ懸念による政策金利の最終到達点の上振れ懸念
- 日本銀行の国債買入縮小
繰り返しになるが、財政悪化懸念はあくまでも一因と捉えるべきであり、足下の超長期金利の上昇にはさまざまな要因が重なっている。
超長期金利に興味を持つべき2つの理由
ただ、確かにすぐに影響する話ではないが、対岸の火事とは思わずに超長期金利の動向に興味を持つことはいいことだろう。なぜなら、この超長期金利上昇は今後の10年物国債利回り、すなわち長期金利の上振れの可能性を示唆している面もあるからだ。
理由は2つある。1つは、政府は超長期国債市場の不安定な動きを受けて、超長期国債の発行減額などの手段を検討していると報じられている。その方法や規模がどの程度になるかはまだ分からない。だが、要するに国債の需給の緩みを解消するため、発行すなわち供給を減らそうとしているということだ。そうなれば、超長期金利の上昇は一服する可能性がある。
一方で、超長期国債の発行を減額した場合、発行額全体を一定と仮定すれば、その補填として他の年限の国債発行を増やす必要が出て来る。この際に、10年以下の年限の国債発行が代わりに増えて需給が緩むことにつながれば、長期金利の上昇に結び付く可能性がある。
もう1つ、前述したように、現状の超長期金利上昇の背景には、日本銀行が金融政策正常化のなかで国債買入額を縮小している点がある。特に景気や物価との連動性が低い超長期国債の買い入れは長期国債よりも先行して縮小しているのだ。
たとえば、2025年の財務省の毎月の国債発行予定額に対して、日本銀行の毎月の買い入れ予定額は超長期国債の場合、発行の14%分程度だが、長期国債は40%程度だ。つまり、現状はまだまだ長期国債については日本銀行の買入が相応に入っており、それによって長期金利の上昇は相応に抑制されている。
日本銀行が金融政策の正常化を今後さらに加速させ、長期国債の毎月の買入額(さらには保有分も)を減らしていくだろう。その方向性のなかで、長期金利の上振れ余地はまだ大きい可能性があるということだ。これが、今回の超長期金利上昇の一番のインプリケーションといえるかもしれない。
※寄稿は個人的見解であり、所属組織とは無関係です。
#超長期金利の急上昇は財政悪化の象徴ではないそれよりも気にすべき身近なアノこと #Business #Insider #Japan