被爆79年となった6日、岸田文雄首相は広島平和記念式典で「核兵器のない世界」の実現に取り組む決意を繰り返し強調したが、決意とは裏腹に米国の「核の傘」への依存を深める矛盾が浮き彫りになった。被爆者の多くが加入を熱望する核兵器禁止条約にも背を向け続けており、被爆国として国際社会を核兵器廃絶に導く理想からは程遠い状況だ。
◆「私が先頭に立つ」と強調
首相は式典での演説で「核兵器のない世界への道がどんなに困難であっても、私たちは前進を止めることはできない」と力強く述べた。核兵器用核分裂性物質生産禁止条約(FMCT)実現に向けた友好国会合については「私自身も先頭に立って取り組んでいきたい」と語った。
岸田首相(中央後列)は、広島市南区で、2023年5月に開催されるG7広島サミット招待国の首脳らと会談する。
任期末に広島原爆記念日を迎えた首相は核問題をライフワークとし、昨年のG7広島サミットでは初の核軍縮共同文書「ヒロシマビジョン」をまとめた。だが、この文書が明言するように、核報復への恐怖を植え付けて攻撃を思いとどまらせる「核抑止力」を強化する方向に進んでいる。
「核抑止論」転換の呼びかけに反応なし
ロシアがウクライナへの核兵器使用をちらつかせ、中国と北朝鮮が核戦力を強化する中、先月末、拡大抑止に関する初の日米閣僚級協議が行われた。松井一実市長は平和宣言で核抑止政策からの転換を訴えたが、首相は式典後の記者会見で「日米の信頼関係を強化する重要な取り組みだ」と一蹴した。
核兵器を完全に違法とする核兵器禁止条約に対しても同様の無関心が見られる。
「政府が条約に背を向けていることで、私たち被爆者は海外に出稼ぎに行くことにもがき苦しむし、恥ずかしさも感じている」と広島原爆被害者団体連絡会議事務局長の田中聡さん(80)は市内で行われた首相と被爆者団体の会合で語り、日本の条約加入を求めた。
核保有国との交渉は成功の兆しなし
首相は「核保有国を動かさなければ現実は何も変わらない」との従来の立場を繰り返し、日本のオブザーバー参加には言及しなかった。
被爆地出身の首相のもとで、核兵器のない世界に近づいているのだろうか。会合後、田中氏は「核抑止力は我々の望むものとは程遠く、危険な道に向かっている」と危機感を表明した。広島県原爆被害者団体協議会の佐久間邦彦会長(79)も「真実を語る被爆者の声をなぜ聞かないのか」と首相の対応に失望を露わにした。
核保有国に核軍縮交渉を求める核拡散防止条約(NPT)も停滞しており、首相も目立った成果を示せていない。(近藤恒良)
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◆ 規制のための措置は取られておらず、空虚な言葉だけ
米ロ核軍縮条約が機能不全に陥り、イスラエルの閣僚がパレスチナ自治区ガザ地区での核兵器使用を示唆するなど、国際的な核情勢は楽観できるものではない。岸田首相は核問題に熱心だが、「核兵器の使用は例外なく容認しない」とまでは言わず、空虚なスローガンに過ぎない。拡大抑止力を強化するなら、核兵器に頼らない形を目指すべきであり、日米同盟を核同盟に転換する動きに被爆者が心を痛めるのは当然だ。
日本政府は核兵器廃絶を唱えながらも、核兵器禁止条約など具体的な核兵器使用制限には消極的だ。唯一の戦争被爆国としての存在感を示すためにも、米国に核兵器の先制使用を控えるよう働きかけ、それをきっかけに中国との対話の場を提案することは可能だろう。米中間の核使用リスクを減らすことは日本の安全保障にも役立つだろう。
2024-08-06 21:00:00
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