香川大名誉教授の高倉良一氏(72)が、SNS型ロマンス詐欺で計925万円をだまし取られた体験を著書にまとめ、出版した。法律学を専門とし、学生に「本質を見抜け」と説いてきた学者が、なぜ巧妙な心理的罠に落ちたのか。実体験を通じて詐欺の手口を明かし、被害防止のヒントを訴えている。
法律学の専門家が陥った925万円の詐欺被害
香川大で約35年間、法律学や社会学、哲学を教えてきた高倉良一氏が、SNSを通じたロマンス詐欺の被害に遭った。高倉氏は2024年5月、自身のSNSへの投稿をきっかけに「愛子」と名乗る人物から接触を受けた。やり取りはLINEへと移行し、相手は日本人の父と中国人の母を持ち、アパレル会社を経営しているといった身の上話を展開した。高倉氏は相手の知的な返答や人懐っこさに次第に心を許し、「守ってあげたい」という心理状態になったと振り返る。被害総額は925万円に上り、その過程でカードローンや知人からの借金も重ねた。
投資勧誘と「口座凍結」の巧妙な手口
退職後、金銭的に困窮していなかった高倉氏だが、「愛子」から持ちかけられた投資話に興味を抱いた。著名な経済学者という「伯父」の助言を装う手法に信頼を深め、指定口座へ試しに5万円を振り込んだところ、残高が188万円に増えたかのような画面が表示された。これがさらなる送金を促すトリガーとなった。その後、「口座が凍結された」として解除費用を求める要求が繰り返され、自宅マンションの所有権を手放す事態にまで発展した。2024年9月30日に190万円を送金した翌日、連絡は完全に途絶えた。
人間関係に影を落とす被害の代償
被害は金銭面にとどまらず、高倉氏の社会的な人間関係にも深刻な影響を及ぼしている。取材中にも高倉氏の携帯電話には借金の返済を求める連絡が相次いだ。一部の友人には給湯器の故障などを口実に借金をしており、現在も関係修復ができていないという。かつて大学で「物事の本質を見抜け」と学生を指導していた自身が被害に遭ったことについて、高倉氏は「知識や自信があり、だまされないと思い込んでいた」と悔恨の念を語る。被害の過程をありのままにつづった著書『70歳の法学者が、なぜロマンス詐欺に騙されたのか』(さくら舎)を通じ、他者の被害防止を呼びかけている。
高松地検が公開した特殊詐欺体験ゲーム
高松地検が公開した特殊詐欺体験ゲームの特設ページ
https://www.kensatsu.go.jp/kakuchou/takamatsu/keihatsu/
今後、高倉氏は自らの経験を「黙っていては詐欺師の思うつぼ」とし、被害防止のヒントとして広く伝える方針だ。一方、高松地検はゲームの公開を通じ、怪しいと感じた際に警察へ相談する重要性を訴え続けていく。専門家が詐欺の構造を解き明かす著書と、地検による啓発活動が、巧妙化するSNS型ロマンス詐欺に対し、どのような防波堤となるかが今後の焦点となる。