金融政策 vs. 財政政策:ともに経済の安定を目指す、2つの政策の違いとは? | Business Insider Japan

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2024-03-05 08:30:00

中央銀行が金融政策を決定し、政府が財政政策を決定する。

フィスケス/ゲッティイメージズ

  • 金融政策は、中央銀行が主導で、通貨供給量と金利の操作により経済を統制することを目指す。
  • 財政政策も同じ目標達成を目指すが、政府が主導し、利用するのは税金と歳出となる。
  • 両政策のアキレス腱は、政策の実施と結果に時差が生じることだ。

ビル・クリントン元大統領の選挙参謀を務めたジェームス・カービル氏が、1992年に放った有名な「経済こそが大事なのだ、愚か者!」という言葉は、大部分の有権者にとって何が最も大事なのかを物語っている。

経済に影響を与え有権者を喜ばせる、最も広く知られる2つのツールは、中央銀行が実施する「金融政策」と、政府が実施する「財政政策」だ。どちらも国の経済の安定と均衡維持に重要な役割を果たす。

金融政策と財政政策: まとめ

金融政策と財政政策の目的はどちらも経済の安定だが、それを担う政策担当者は異なる方法でその目標に取り組む。両政策の主な違いはその名称に現れている。「金融」とは通貨供給量、すなわち支出に回せる貨幣量を指す。一方「財政」とは予算、すなわちお金をどう使うかを示す。

  • 金融政策には金利や通貨供給量の操作が含まれ、中央銀行(米国なら連邦公開市場委員会[FOMC])で決定される。
  • 資金をどう使うかを決める財政政策は、政府(米国なら議会と大統領)の責務であり、経済安定を達成するために租税政策と歳出法の立法措置が利用される。

金融政策とは何か?

おおまかに緩和的か引き締め的のいずれかとして表現される金融政策は、米国では1913年に議会が設立した非政府機関である連邦準備制度理事会(FRB)が決定する。

金融政策を決定するために通常FOMCが年に8回開催され、公開市場での証券の売買、連邦銀行に対する預金準備率の変更、市中銀行がFRBから借り入れる金利(割引率)の調整により、通貨供給量をコントロールする。

通貨供給量を引き上げるというFRBの行動は、金利を低下させ、借入れを容易にし、国内総生産(GDP)を押し上げ、失業を減らし、株式市場を上昇に導く可能性がある。インフレやハイパーインフレにより経済が過熱する危険がある場合には、FRBはインフレやハイパーインフレを回避するために通貨供給量を引き締める(減らす)。

歳出や租税政策に依拠する政府の財政政策も、FRBの金融政策と同じ目標を達成するために経済を拡大または抑制しようとする試みだが、その方法が異なる。

金融政策の場合、例えば、金利を対象とする政策は広く経済に影響を及ぼす。金利を引き上げればインフレに対する下押し圧力になるし、景気後退時には金利を引き下げて経済をけん引することができる。そのことは、FRBが議会の政治的陰謀に巻き込まれず、意図的に中立を保つのに役立つ。だが、中立か否かにかかわらず、金融政策は広く影響を与え、一部に絞って実施することはほぼ不可能だ。

議会が複雑な法案を可決できるのに対して、比較的こじんまりとしたFOMCは迅速に金融政策を実施できる。クレイトン大学ハイダー・カレッジ・オブ・ビジネスのロバート・R.ジョンソン教授によると、デメリットは、政策の実施とその結果の時差だ。

「例えば、FRBには物価の安定と最大限の雇用という2つの法的使命(デュアルマンデート)がある。FRBの行動がこの最終目標に至るまでにどのくらいかかるのかを見極めることは、不可能ではないにせよ困難だ」とジョンソン教授は言う。

最後に、FRBが利下げをすると、米国市場に投資をするためのドル需要が減退する。その結果、米ドルが下落し、米国で製造される製品が安くなり、輸出しやすくなる。一方、FOMCが注視していなければ、景気過熱によりインフレやハイパーインフレさえも生じる可能性がある。あらゆることと同様に、金融政策でもバランスが鍵を握る。

注記:政府による政策の実施と結果の時差を応答ラグという。認知ラグ、決定ラグ、行動ラグなどその他の種類は、FRBや政府の経済政策に伴う非効率性をもたらし得る時差のことである。

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金融政策の長所 金融政策の短所

・金利はインフレ抑制の効果的

・中央銀行は政治的に中立

・迅速な制作実施が可能

・通貨安が輸出を促進


・技術的な制約

・制作が経済全体に影響

・実施と結果に時差が生じがち

・パイパーインフレのリスク

金融政策の例

コロナ禍では、激しく揺らぐ経済を、金融政策を通じて制御するFRBの能力が大きく問われた。FRBはまず、短期金利をゼロに引き下げた。その効果が不十分だと判明すると、FOMCは毎月1200億米ドル(約18兆円)の債券と住宅ローン担保証券(MBS)の購入を始めた。

こうした施策の目的は、金利を低水準に抑え、通貨供給量を増やすことで、マイナス19.2%にまで落ち込んだ経済をテコ入れすることだった。こうしたFRBの政策のおかげで、景気後退の期間は2020年2月~4月のわずか2カ月間に抑えられた。

金融政策の次のステップは、未曽有の景気刺激策を終了し、インフレに目を光らせることだった。それに当たりFRBは、証券購入ペースを徐々に減速させる量的緩和の縮小(テーパリング)として知られるプロセスに着手した。

「引き締め的」な金融政策とは?:中央銀行(米国ではFRB)がインフレ抑制のために利用するマクロ経済ツールだ。

その目的は、通貨供給量、すなわち国中に流通している現金および現金化が容易なファンドの金額を減らすことにより、経済を減速させることである。つまり、拡張的な金融政策の反対だ。

政府や中央銀行は、インフレ率を見て景気がいつ過熱しているのかを測る。需要の増加が財やサービス価格の上昇に拍車をかけるのは自然なことだ。例えば、通常時の米国の平均インフレ率は年率2~3%と考えられている。

だが、インフレ率が目標値を上回ると、それが警告として機能し、引き締め的な金融政策導入の大きなきっかけになる。

1970年代後半は、インフレ鎮静化のために引き締め的な金融政策が取られた有名な例だ。インフレ率は1972年の3.4%から1973年には8.7%に跳ね上がった。

こうした劇的な物価上昇の背景には、賃金統制や金と米ドルの兌換停止など数多くの原因があった。それに対抗するために、FRBはフェデラルファンド金利(FF金利)を1月の6%から8月に11%に引き上げた。これによりインフレ率は一旦5.7%程度に低下した。

だが、8月に石油輸出機構(OPEC)による石油価格の引き上げを契機にオイルショックが起きた。

1974年にインフレ率は12.3%に上昇し、FF金利は13%の高水準を付けた。

物価は上昇していたにもかかわらず、経済成長率は依然として低く、それが奇妙なスタグフレーション期をもたらした。米国は景気後退に突入し、FRBはこの状況を打開しようと金利を引き下げたが、物価は根強く高止まりした。

インフレ率が14%をつけた1980年、FRBはとうとう金利を20%に引き上げた。これでようやく物価動向が反転し、1982年にインフレ率はやっと3.8%に低下した。

「拡張的」な金融政策とは?:中央銀行(米国ではFRB)が経済成長を刺激するために使うマクロ経済ツールだ。中央銀行は通常、GDPが低下し始める景気サイクルの縮小期にこの政策を実施する。

GDPの低下は、次のさまざまな望ましくない影響をもたらすことがある。

  • 企業の倒産や債務不履行
  • 失業
  • 株式市場の下落
  • 国の通貨価値の低下

こうした影響すべてに歯止めがかからなければ、最終的に景気後退や恐慌に陥りかねない。

どんな拡張的な金融政策も、その目標全体は支出と借入の促進だ。その裏には、個人や企業がより低いコストで多くの資金を利用できるようになれば、結果的に財やサービスの購入が増え、経済成長を刺激するという考え方がある。

財政政策とは何か?

財政政策も金融政策と同様、その目的が景気拡大かインフレ抑制かによって、拡張的な政策と引き締め的な政策に分けられる。連邦政府が財政政策を決める場合、同じく経済の安定を図ることが目的であっても、FOMCとは違う手を用いる。これにより財政政策は金融政策よりも的を絞って経済に影響を与えることができる。

政府が景気を拡大したい場合は、通貨供給量を増やす代わりに、歳出を増やし、減税し、経済の総需要を効果的に増加させる。景気を抑制したい場合は、歳出削減や増税あるいはその両方の政策を実施する。

重要なことは、政府は的を絞って支出できることだ。これは、通貨供給量の増加ではできない。政府は低所得者層、個別業種、地域などに焦点を当てて政策を繰り出せる。だが、政府とは生来、政略的なものであるため、最も声高に主張し影響力の強い層に資金が流れたり、さらに悪いことに無駄遣いしたりする危険性は常に付きまとう。

税金を活用した通貨供給量の管理は、支出と同様に対象を絞って行うことができるが、同じく政治的な影響を受ける。歳出プログラムについても誤用の動機という危険をはらむ。

対象を絞った財政政策では、政策の実施と結果の時差は短いが、立法化手続により導入側で遅れが生じると、ジョンソン教授は言う。

「米国経済はいま、財政支出の拡大や税率の引き下げという恩恵を受けているかもしれないが、適切な法案が可決されるまでに、経済が上向き財政刺激策が不要になっていた可能性もある。FRBの金融政策の方が、議会の財政政策よりも方向転換がずっと容易だ」

財政政策を活用して、失業や貧困を効果的に削減できるのは大きな利点だが、いともたやすく財政赤字に陥る。実際、財政政策を繰り出したことが、2021年の米国の年間財政赤字額が2.77兆ドル(約416兆円)に上った主な理由だ。だが、2021年と2020年の3.13兆ドル(約471兆円)の赤字の大半は、コロナ対策のための政府支出によるものである。

注記:財政政策の発動に伴う追加的なラグは、問題の認識と政治的プロセスに着手する導入の時間による決定ラグとして知られる。

財務政策の長所 財務政策の短所

・対象を絞った支出や税制政策が可能

・政策の導入と結果の時差が比較的短い

・失業と貧困を削減できる


・どれも政治問題と誤用のおそれがある

・関わる人が多いため、財政政策の実施には比較的時間がかかる

・過剰支出が財政赤字を生み出す可能性がある

財政政策の3つのタイプ

財政政策は一般的にその目的に応じて以下の3つのどれかに該当する。

  • 中立政策は、政府の財政政策が、経済への影響を意図していない場合である。政策はなお実施されるかもしれないが、新たな歳出は歳入増に完全に裏付けされる。
  • 拡張的政策は、政府が経済成長を刺激するために、歳出増か減税を行う場合である。拡張的な政策は、景気後退を回避またはそれに終止符を打ち、高い失業を防ぐ試みのことがある。
  • 引き締め的な政策とは、持続不可能な高い経済成長を阻止するために、政府が歳出削減や増税を行う場合である。引き締め的な政策は、インフレの抑制、政府債務の削減、健全な失業率の維持を目指して実施されることがある。

財政政策の例

パンデミック中は、金融政策と財政政策が安心感を与えるのに役立った。財政政策としては、コロナウイルス支援・救済・経済安全保障法(CARES法)と米国経済救済計画法が主な例である。

2020年に成立したCARES法では、返済免除条件付き融資や直接現金給付、違約なしで退職金口座から引き出せる税法の変更などの形で、中小企業や個人を対象に2兆ドル(約300兆円)以上の財政刺激策が講じられた。

2021年の1.9兆ドル(約285兆円)の全米経済救済計画法では、全米でのワクチン接種プログラムや安全に学校を再開するための資金、追加的な直接現金給付、失業給付と手当の延長、緊急家賃支援、児童税額控除の拡大、コミュニティに対する追加支出など、追加的な刺激策が実施された。

経済に影響を及ぼし景気を安定させるうえで、金融政策と財政政策は力強い仕組みである。だが両政策とも、アイデアと実施、あるいは、実施と結果の間に時差が生じることが主な問題点だ。

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