生活に支障をきたすほど外見の悩みに囚われる「身体醜形症(BDD)」を巡り、精神科と美容外科の医師らが患者を高リスク者から適切に識別し治療につなげる手引をまとめた。借金を重ねて美容整形を繰り返す患者らが後を絶たない現状を受け、診療科を超えた連携体制の構築が急務となっている。
美容整形を繰り返す背景にある身体醜形症の実態
関東地方に住むサービス業の30代女性は、髪を切りに行くような感覚で「次はどの部位をアップデートすれば良いか考えている」と整形への思いを淡々と語る。小さな頃から自分に自信が持てず、20代で初めて目を二重にした。出産後に一度は関心が薄れたものの、鼻に人工軟骨を入れたり脂肪吸引を受けたりと、整形への執着はすぐに再燃した。SNSに流れるインフルエンサーの容姿を見るたびに心がざわつき、家族に借金をしてまで韓国で手術を重ねた。鏡を見るたびに「この先もこの顔で生きるのが耐えられない」と強い苦痛を感じている。約1年前、もともとあった強迫症の治療で東京都中央区にある原井宏明医師のクリニックを訪れ、BDDと診断された。しかし、本人には顔を変えることは趣味だという認識が強く、病気であるという自覚は乏しいのが現実だ。
患者自身には病気の認識が乏しくゴールを見失う傾向
BDDは完璧さを求める精神疾患であり、受診する多くの患者はどのような自分になりたいのかというゴールそのものを探していると原井宏明医師は読み解く。気になる部位は顔立ちや体毛など多岐にわたり、患者には女性が多い一方で、若い男性の姿も目立つようになってきた。国内における正確な患者数は現在も判然としておらず、医療現場がいかにして当事者を早期に拾い上げるかが大きな課題となっている。本人に病識がないまま美容整形を重ねるケースが多く、受診に至るまでのハードルも決して低くない。
美容外科と精神科の連携不足が招く診療の壁
美容外科医の原岡剛一・大阪公立大特任准教授は、明らかに手術を受けすぎており、提供した医療に満足してもらえないケースではBDDを疑う必要があると指摘する。しかし、現状では精神科の領域でこうした診療に慣れている医師は限られており、美容外科を受診した患者をスムーズに精神科へ紹介する体制は十分に整っていない。原岡剛一さんは、美容外科の現場においてBDDの認知度を向上させ、精神科との連携をより一層深めていくことが不可欠であると強調している。
現場の医師らが作成したチェックマニュアルの役割
こうした課題を解決し適切な治療へつなげるため、原井宏明さんと原岡剛一さんは6月に「身体醜形症BDDチェックマニュアル」を金芳堂から出版した。このマニュアルでは、外見への過剰な心配や気分の落ち込み、人間関係や社会活動への支障などを具体的な目印として挙げている。美容外科の現場でこうした見分け方を共有し、抗うつ薬の投与や悩みの軽減を図る認知行動療法などの適切な治療へと導くことが狙いだ。
適切な治療と診療科の垣根を越えた支援の模索
BDDに苦しむ患者を適切な医療へと導くためには、美容外科と精神科の緊密な協力関係が欠かせない。患者自身が抱えるルッキズムの呪縛や外見への強迫観念に向き合い、少しでも生きやすさを取り戻せるような環境整備が求められている。今後は現場の医師らによる手引の活用がどれだけ浸透し、診療科の垣根を越えた具体的な支援体制が広がっていくのかが注目される。