米司法省は、移民申請における詐欺行為などを理由に、帰化市民40人の市民権剥奪を求める訴訟を複数の連邦地方裁判所に申し立てました。トッド・ブランシュ司法長官によれば、これは近代史上最大規模の国籍剥奪の動きであり、重大な犯罪行為や虚偽の申告に関与した人物を対象としています。
対象となった人物と各国籍の広がり
国籍剥奪手続きの対象となった40人は、26歳から76歳までの幅広い年齢層にわたり、メキシコ、パキスタン、中国、シエラレオネ、イラン、フィリピン、アフガニスタン、ナイジェリアなど、世界20カ国以上の出身者が含まれています。これにはメキシコ国籍の9人やパキスタン国籍の4人などが含まれ、ダグラス・チュクウカ・エゼ氏やシエラレオネ出身の58歳のイフェオル・サミュエル・アキンゲミシル氏、メキシコ出身のノーマ・パトリシア・エスパルサ氏なども含まれています。

具体的な事例として、次のようなケースが挙げられています。
- 中国生まれの元米海軍水兵であるジンチャオ・ウェイ(Jinchao Wei)氏は、2025年8月にスパイ活動や防衛関連の技術データの違法輸出などの罪で有罪判決を受け、200ヶ月の禁錮刑および不名誉除隊を言い渡されました。検察側は、同氏が米市民権取得の数ヶ月前から中国へ軍事機密を売却する計画を進め、2022年5月の市民権取得時にその行為を隠蔽していたと指摘しています。
- カリフォルニア州在住のバルインダー・シン(Balwinder Singh)氏は、1992年に最初の申請を行い、その後2003年に別の身元で永住権を取得、2009年にその2つ目の身元で市民権を自然取得したとして、同州東部地区連邦地裁で国籍剥奪手続きが進められています。指紋鑑定により、シン氏が両方の申請を行ったことが判明しています。
- ナイジェリア国籍のベアトリス・チオマ・ヌワオハ・アシャモレ(Beatrice Chioma Nwaoha Ashamole)容疑者は、54歳の女性であり、過去の犯罪歴や別名、過去の移民特典申請、強制送還の事実を申請時に開示しなかったとして、メリーランド州地区で起訴されました。
- アフガニスタン生まれのアサド・ジョン・ラミム(Assad Jhon Ramim)氏は、約30年間にわたり他人の身元を使用し続け、最終的にその身元で米市民権を得たとされています。
- キューバ国籍のラザロ・エドゥアルド・トルヒージョ・ビトン氏は、医療詐欺共謀への関与や不正なメディケア請求の隠蔽の疑いが持たれており、パキスタン国籍のアマド・バハル・ハッタック氏は複数の身元を用いて強制送還を逃れたとされています。また、エジプト出身の58歳のナディア・ハサン・モハメド・アリ氏は、虚偽のH-1B請願を利用したとして告発されています。
- エジプト出身の62歳であるワリッド・オスマン氏は、自然化の書類で虚偽の記載をしたとされていますが、弁護人のシモン・サンドバル=モシェンバーグ氏によれば同氏は犯罪歴がなく、法廷で徹底的に争う方針を示しています。
さらに、南部テキサス地区では、身元を偽り犯罪歴を隠蔽して市民権を得たグメ・ロベルト・ガルサ(別名:グメルシンド・ガルサ・ペレス、ジェラルド・バスケスなど)に対する市民権剥奪訴訟が提起されています。同氏は2013年に虚偽の宣誓供述を行ったとして有罪答弁を行っています。また、南部インディアナ地区ではフアン・ホセ・エグスクイサ=バスケスに対する訴訟も提起されており、南部フロリダ地区ではマネーロンダリング共謀罪に問われたユズマリー・シャーリー・デュラン・メヒア氏に対する訴訟も進められています。
歴史的背景と専門機関が示すデータ
ガーディアンなどの報道によると、市民権剥奪の手続きは費用がかかり多大な労力を要するため、1967年以降、歴史的に散発的にしか行われてきませんでした。マイグレーション・ポリシー・インスティテュートの報告によれば、1990年から2017年の間は年間平均11件の国籍剥奪ケースが提起されていましたが、トランプ前大統領の1期目には年間25件に増加しました。そして2025年、司法省は民事部門に対して国籍剥奪手続きを最優先し最大限に追求するよう命じるメモを発令していました。
トランプ政権の司法省による最近の動きは、2025年8月に25件の民事訴訟が発表されたことに続くものであり、一連の対応は国家安全保障の維持とアメリカ国民の保護を目的としていると当局は説明しています。連邦最高裁が1967年の裁判で示した判例以降、市民権は自発的に放棄しない限り基本的に取り消されないものとされてきましたが、近年の政権の方針転換により、虚偽の申告や不正取得に関する手続きが大きく加速しています。

人権団体などは、こうした広範な国籍剥奪の動きについて詳細な検証を行っており、今後の司法判断や法廷闘争の行方に注目が集まっています。