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2024-11-25 06:30:00
撮影:伊藤圭
地域の自然や文化を維持しながら、観光業との両立を図る「サステナブルツーリズム」。
欧米からのインバウンド観光客を中心に注目が高まっているものの、日本人旅行者の間ではまだ浸透していないのが現状だ。
そこで、日産と日本旅行が発起人となり、JRグループをはじめ多業種の全14社が集結した「GREEN JOURNEY推進委員会」を発足。産官学連携のもと新しい旅のスタイル「GREEN JOURNEY」を提案し、第1弾として熊本阿蘇と伊勢志摩へのツアー旅行を販売している。
異業種が同じビジョンのもとコラボするという、業界の垣根を超えた取り組みの裏側に迫った。
「2033年までに1000万人以上」の利用を目指す

グリーンジャーニー
「環境にやさしく、地域はうれしく、自分たちはとことん楽しい旅」をコンセプトに掲げるGREEN JOURNEY。
旅先での移動にはCO2排出ゼロのEV(電気自動車)が用意されるほか、地球環境に配慮したサービスを提供する宿泊施設、その土地ならではの食や文化を楽しめるオプションなど、旅行中のさまざまなシーンにサステナブルな要素が散りばめられている。
ポイントは「無理をしない、関わるすべての人が幸せになる」旅だ。
旅行者はこれまでの旅行と同じように非日常を楽しみ、それが結果として環境や地域社会に良い影響を促す。そして旅行者、観光関連事業者、地域の人々の幸せにつながる好循環を生み出していくことを目指している。

ツアー第1弾となる熊本阿蘇、伊勢志摩に続き、2033年までに全国200エリアへの旅先の拡大と利用者数のべ1000万人以上を目指す。さらに、2050年までに国内旅行におけるCO2排出ネットゼロを目標に掲げている。
グリーンジャーニー
EVを旅先での体験ツールとして活用
GREEN JOURNEYの普及に取り組むGREEN JOURNEY推進委員会が発足したのは2024年8月。
2023年末に、発起人となる日産と日本旅行の間で話し合いがスタートした。きっかけは両社が抱える課題にあったという。
「日産は2010年に世界初の量産EV『リーフ』を発売し着実にファンを増やしてきた一方、EV未体験者へのアプローチには悩みもありました。
そこで旅先での“移動”がEV乗車体験の良い機会になるのではと考え、サステナブルツーリズムに注力している日本旅行さんにお声掛けしました」(日産自動車 日本マーケティング本部 菊地 美春さん)

日産自動車 日本マーケティング本部 チーフマーケティングマネージャーオフィス 課長代理の菊地 美春さん。GREEN JOURNEYプロジェクトでは、主にEV充電器の拡大とEVレンタカー配備のサポ―トを担当。
撮影:伊藤圭
日本旅行では、2019年に大手旅行会社で初めてSDGs宣言を発表し、カーボンオフセットの仕組みを取り入れた旅行商品などを展開。
しかし一般消費者への浸透はなかなか進まず、サステナビリティをより自分ごと化しやすい「体験」を軸とした、新たな商品を検討していた。
「当社では持続可能なまちづくりに取り組んでいたこともあり、ぜひ両社の強みを生かす形で連携できたらと話し、プロジェクトがスタートしました」(日本旅行 事業共創推進本部 近藤れい奈さん)

日本旅行 事業共創推進本部 SDGs推進チームの近藤れい奈さん。
撮影:伊藤圭
サステナブルな旅=環境に良い、だけじゃない
では、会社を超えたGREEN JOURNEYはどのように立ち上がっていったのか。ターニングポイントとなったのは、「現地の視察と地域の人々へのヒアリング」だと2人は口を揃える。
地域の人々が考えるサステナブルツーリズムとはどんなものなのか、地域の課題解決と旅行者の楽しみをどうやったら両立できるのか、そのヒントを求めて熊本県阿蘇市と三重県志摩市で「合宿」を行ったのだ。

グリーンジャーニー
「各地域のキーパーソンの紹介で、ホテル、レストラン、土産物店、観光体験施設、農業や漁業に携わる方々と顔を合わせて話をすることができました。
そこで感じたのは地元の発展を切に願う気持ち、そして気候変動など環境変化に対する強い危機感です。
サステナブルツーリズムは、地域の力なくして成り立ちません。地元の皆さんがこれまで築いてきた文化や産業や人のつながりを私たちも一緒に大事に育てていかなければと強く感じました」(近藤さん)

撮影:伊藤圭
合宿を通じて、プロジェクトメンバーたちはさまざまな気づきを得ることとなった。
「現地に足を運び、現地の方々と対話したことで得られることが非常に多かったです 。
サステナブルツーリズム=単に環境に良い旅のことだと思われがちですが、決してそれだけではありません。
旅行者を受け入れる地域の皆さんが持続可能な働き方や暮らしができるか、環境や文化を大事にしながら経済性を維持できるかといった大きな視点で考えなければ、真のサステナビリティにはつながらない。現地のみなさんとの対話や活動を通じて、そう教えていただきました」(菊地さん)
1社単独ではできないことがある

2024年8月に、グリーンジャーニー推進委員会を発足。
グリーンジャーニー
現地合宿を機に、プロジェクトを通じて実現したいことの解像度が一気に上がったと語るメンバーたち。
一方、「EVを普及させたい」「サステナブルツーリズムを広げたい」という互いの思いをどう受け止め、チームとして歩んできたのだろうか。
「お互いの事業領域についてはもちろん素人です。
日本旅行のメンバーはEVやモビリティに関する勉強を、日産の皆さんは旅行パンフレットの見方や旅行商品の開発プロセスを学ぶというように、事業の中までぐっと踏み込んだ情報交換や勉強を重ねています」(近藤さん)
事業に関するノウハウを外部に共有することには少なからず抵抗があるものだが、一体なぜそこまでやるのだろうか。
「EV普及の裏側にどんな課題があるのか、サステナブルツーリズムを広げるうえでのハードルは何か、互いの手の内や弱みを見せ合わなければ良いものはつくれません。
自社だけではできない部分が明確になれば、互いを補完し合えると考えています」(菊地さん)
こうして会社の垣根を超え、理解を深めながら旅のコンセプトを固め、さらなる仲間探しを始めると、JRグループ7社、地球の歩き方、おてつたび、TBWA HAKUHODO、Earth hacks、日本ジオパークネットワークの12社が賛同を表明。仲間の輪は広がった。

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サステナビリティは、意識が高い人だけのもの?
サステナブルな取り組みに対して「難しそう」「堅苦しい」といったイメージを抱く人は少なくない。
そこでGREEN JOURNEYは、旅の動画などを通じて“等身大の発信”に注力している。

旅行中の体験アクティビティ「CONNECT PROGRAM」では、地域の人々と交流し、土地の産業や文化に触れることができる。また、旅行後もLINEアプリを通じて地元の人からメッセージが届くなど、旅先やそこで暮らす人たちとの新たなつながりを生む仕組みも整えた。
グリーンジャーニー
「サステナブルツーリズムは、決して“意識が高い人”だけのものではありません。『楽しんでいるうちに自然とサステナブルなことをしていた』という体験を提案していきたい。
まずは参加のハードルを下げ、旅行の新たな選択肢として定着させたいと考えています」(近藤さん)
「JOURNEY」という言葉にも特別な意味が込められている。
「旅行という非日常の体験をきっかけに、日常生活におけるサステナビリティへの意識を変えてもらえたらという思いがあります。
人生もまた長い『旅』であり、旅行で体験したことや感じたことがその人の人生に良い影響をもたらし、それが巡り巡って社会や環境にとって良いアクションを起こすことにつながってほしいと願っています」(菊地さん)
「EVは環境に良い」と100回聞くよりも、1回体験する方が強い

撮影:伊藤圭
GREEN JOURNEYの発表後、自動車や旅行業界といった同業者のみならず、業界の枠を超えたコラボレーションの提案や、旅行者をぜひ受け入れたいと自治体から連絡来るなど、反響は「想像以上」だという。
「実はこのプロジェクトに入った当初は少し疑問もありました。
『結局、意識の高い人にしか響かないんじゃないの?』と斜に構えていた部分も少なからずあったんです。
でも現地に行って地域の人と触れ合い、自分自身の考えが大きく変わりました。その土地ならではの思い出が心に刻まれることで『この地域のために何かできないか』『日常生活でも工夫できることはないか』と人の意識や行動を変えることができるんじゃないかと。
『EVは環境に良い』と100回聞くよりも、1回の旅行でEVに乗った体験のほうがきっと心に残るものは大きいですよね。
社会のためにどんな価値を提供できるのか、どうやったら人の心を動かすことができるのかを考え続けていきます」(菊地さん)
実際にツアーに参加した人たちからは、「サステナビリティを身近に感じることができた」「とにかく楽しかった」「EVの良さを体感できた」といった声が届いているという。
現在は、水面下でさまざまな企業や自治体と交渉を進めつつ、引き続きGREEN JOURNEYの普及を図っている。
「サステナブルツーリズムの推進を、地域の課題解決や住みやすいまちづくり、関係人口の創出につなげていきたいと考えます。
同じ志を持つ仲間が集まり、一緒にGREEN JOURNEYを育てていく、そんな輪を広げていきたいです」(近藤さん)
(文:星野愛、撮影:伊藤圭、編集:中島日和[Business Insider Japan Brand Studio])
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