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2024-11-11 12:00:00
読売テレビ『つづ井さん』ドラマ公式サイトより編集部キャプチャ
ある女性の「絵日記」漫画が売れている。
シリーズ累計で90万部を突破し、文化庁メディア芸術祭の推薦作品に選出。ついにはテレビドラマ化を果たし、2024年10月10日から読売テレビで放送されている。
作者の名前は、つづ井さん。一体なぜ、つづ井さんの絵日記がここまで売れているのか。
本シリーズの魅力を、4人の読者の声と共に紹介したい。
読むと、推しがほしくなる

コロナ禍を経て、数年ぶりに「推し」の舞台を訪れた際のつづ井さん。
©つづ井/文藝春秋
私が感じる本作の魅力を先に言ってしまうと、「推し」に目覚めた人の喜びと悲しみを凝縮しつつ、読者からすると「理想的」とも言える友人たちとの交流の様子が描かれている点にある。
本作を読んだ多くの人は、つづ井さん、そして彼女の友人たち「前世からの友」の虜になってしまう。そして、誰かを「推し」たくなるのだ。
「つづ井さん」の絵日記は、大きく分けて3つのシリーズがある。『腐女子のつづ井さん』『裸一貫!つづ井さん』『とびだせ!つづ井さん』だ。

『つづ井さん』シリーズの既刊。
撮影:野田翔
1作目の『腐女子のつづ井さん』は、2014年10月にTwitter(現・X)にポストされた絵日記から収録しているため、実に10年に及ぶ日々を記録していることになる。
題名から分かる通り、当初はいわゆる「腐女子(BL=ボーイズラブを愛する女性たち)」である作者・つづ井さんと、友人たちとの日常を記録する漫画として始まった。
だが、『裸一貫!つづ井さん』からその色は薄まり、舞台俳優の「推し」ができたつづ井さんの推し活エピソードや、友人たちとの楽しい日々に焦点を当てる漫画としての色が濃くなっていく。

©つづ井/文藝春秋
推しがいる20代のミキさん(仮名)は、「つづ井さんは、生活の中心に推しがいて、さまざまな行動に推しが起因しているところに共感します」話す。
つづ井さんは、初期には漫画やアニメなど「二次元」のキャラクターを推し、どちらかと言うと、休日は家にこもっている様子が描かれる。それが「三次元」の推しができてからというもの、日帰りで名古屋から九州まで遠征し、1カ月の給与のほとんどがチケット代に消えるという劇的な変化が起きる。

ミキ
私も推しのライブのためなら大阪とか名古屋まで全然行くし、推しジャンルとコラボしてるカフェやカラオケにも行きます。休日の予定は推し関連になってるし、推しの配信に合わせて帰宅したりするから生活リズムまで変わったりしますね。
つづ井さんが推し活する姿も実に楽しそうだ。推しが出演する舞台に涙する様子はもちろん、差し入れのプレゼントを選ぶためにセレクトショップに行って悩んだり、開催されるかもしれない握手会のために友人たちと握手の練習をして本気で照れてしまう姿がほほえましい。

「前世からの友」と握手会の練習をするつづ井さん。
©つづ井/文藝春秋
30代のマユミさん(仮名)は「つづ井さんを読むと、推しがほしくなる」と話す。

マユミ
私は〇〇オタクというジャンルがないことがコンプレックスで。特定の推しもいたことがないし、誰かに夢中になれたことがほとんどありません。だけど、つづ井さんを読んでいると、自分で自分を楽しませるためにすごく一生懸命で。二次元の推しがいた時に、推しの身長にテープを貼って楽しむエピソードには感動さえしました。
同時に、彼女を追い詰めるのもまた、推しである。つづ井さんの推しはSNSもやっておらず、インタビューも存在しない。極端に情報が少ないのだ。
そのため、友人たちに苦し紛れに「推しの『ない話』をしてもいい?」と理想の推し情報を語り、「推しのことを『理想のおじさん像なすりつけられ人形』にしてしまっている」と反省する姿はあまりにも切ない。
芥川賞を受賞した『推し、燃ゆ』の宇佐見りんさんは、過去にBusiness Insider Japanの取材に対して「推すことの切実さを文学にしてみたかった」と語っている。つづ井さんにもまた推すことに対する切実さを感じざるを得ない。
だが、全編を通じてあくまで「読み返して楽しい絵日記」として描かれているため、推し活にまつわる悲喜こもごも追体験する上で、これ以上ない作品と言えるのだ。
「前世からの友」の圧倒的魅力

©つづ井/文藝春秋
同時に、「推し活」エピソード以上に私を含む全員が圧倒的魅力として感じていた点がある。
「前世からの友」と作中で称されている、つづ井さん、Mちゃん、ゾフ田さん、オカザキさん、橘さんからなる5人グループだ。作中では全員が「オタクで腐女子」「凝り性な成人女性」として紹介されている。
ある女性声優を10年以上推し続けている30代のヒトミさん(仮名)は、「みんなジャンルが違うのに、いつも楽しそうにワイワイしてるのがめっちゃいい」と語る。
つづ井さんは舞台俳優が推しだが、オカザキさんは超メジャーな男性アイドルグループ、ゾフ田さんは女性アイドルグループ……など、それぞれ推しのジャンルが異なっている。

ヒトミ
私にもオタク友達はいるけど、自分の推しについて話すことはあまりしません。向こうが分からないので。だけど、つづ井さんの友達はみんな自分の推しが尊くて、みたいな話をする。分かり合えてる感じがすごいなと思います。Youtubeやったら人気出そうって思うくらい(笑)
同時に、自分の推しについて遠慮なく語り合える背景にはビジネスシーンでよく語られる「心理的安全性」も関わってきそうだ。

ミキ
皆とても仲が良いけれど、仲の良さから来る扱いの雑さや、人格を否定したり傷つけたりするようなディスりがない。日常的にお互いに褒めあったり気遣いを感じるところが読んでて心地いいし、憧れます。
30代のリエさん(仮名)は、登場人物の一人であるゾフ田さんと、他4人の距離感が好きだという。

リエ
ゾフ田さんは冷静な性格ということもあって、みんなと若干距離があるんです。でも、『あの子は私たちと距離感が違うから、あまり遊ばないようにしよう』とはならず、その距離感を尊重してる。常に全員が健やかであるところが素敵なんです。

ゾフ田さんが、誕生日ではない日にサプライズを受けた際の様子。
©つづ井/文藝春秋
マユミさんはつづ井さんの推しの舞台にMちゃん、オカザキさんが一緒に行ってくれたエピソードに触れた。

マユミ:
こういう友達がいたら、一緒に趣味も広げられるだろうし、羨ましいです。

©つづ井/文藝春秋
ここまで聞くと、つづ井さんたちの日常はホワホワした平和な様子を想像しそうだが、彼女たちは好戦的な一面も持っている。すぐに「選手権」と題して、競争をしようとするのだ。
これまでに開催された選手権を列挙すると、「彼氏おりそうなツイッターアカウント選手権」「恋人がいそうなクリスマス選手権」「リモートちょっとしたパーティ選手権」などがある。
選手権でなくとも、「推しへの思いをテーマにラップバトル」をしたり、家に泊まる際に誰からお風呂に入るかを決めるために部屋の中で相撲をとったりする。

©つづ井/文藝春秋
リエさんは、こういった競争も含め、前世からの友を「自分を楽しませるプロ集団」と形容する。

リエ
争いすら楽しみとして昇華するんですよ。一人ひとりが推しや作品に没頭するだけじゃなくて、みんなで何をしたら楽しいかを考える力が全員にある。個人的にはMちゃんの楽しむ力には狂気さえ感じて好きですね。
なお、「前世からの友」というネーミングについては、Mちゃんが他メンバーと初対面で出会った際に「私はこの4人、前世からの友人だと思ってるから。やっと会えたね」という発言をしたことに由来する。

©つづ井/文藝春秋
ただ楽しそうなだけでなく、意見の対立が生じても、自分たちが納得できる妥協点を楽しみながら探れる前世からの友はやはり心理的安全性が高いと言えるだろう。
言うまでもなく、職場でも家でもない場所に、こうしたコミュニティが存在することの価値は計り知れない。マユミさんは「たとえ趣味が違っても、認め合える関係性を持ちたいと考えてる人が最近すごく多いように感じる」と指摘する。

マユミ
最近『マダムたちのルームシェア』っていうマンガもSNSで人気で。年配の女性たちが一緒に住む日常を描いてるんですけど、一緒に銭湯に行ったり、ピクニックして手作り弁当を交換したりしていて、こんな老後いいなって羨ましくなってます。
「腐女子のつづ井さん」巻末の解説では、作家のアルテイシアさんが本作の魅力について「女の友情とシスターフッドが描かれている」と評している。
“つづ井さんの漫画を読むと、「女に生まれてよかった」と思えるのだ。ジェンダーギャップ指数121位のヘルジャパンで、生きづらさと将来不安のデスロードだけど、それでも女友達がいれば大丈夫、きっと楽しく生きていけると。”(『まるごと腐女子のつづ井さん』 解説より引用)
つづ井さんは何故カッコいいのか

2019年9月に公開されたnoteより編集部キャプチャ
絵日記に収録されている話は基本的に楽しいことばかりだが、もちろんつづ井さんの日常全てが楽しみで彩られているわけではない。
『裸一貫!つづ井さん』シリーズの開始にあたって2019年9月に公開されたnoteでは、「若い女性なのに彼氏もいなくてかわいそう、寂しいはずだ」といったような言葉を対面で何度も言われた経験について触れている。
「彼氏いないんす〜ヤバ笑笑」「自分マジモテなくて笑笑」と自虐に走ること数年、円形脱毛症になってしまったという。
自虐をせず、「ただ生きてて楽しい」という正直な今の現状を、変に謙遜せずそのまま絵日記にしたいという決意を綴り、note内で1万3000の「スキ」がついた。
マユミさんは、こうした姿勢について尊敬の念があると話す。

マユミ
多分、絵日記に書いてないところで、いろいろ大変なことが起きてるだろうし、『好きな人いないの?』みたいなことを聞かれてると思うんです。それでも、絵日記にはポジティブでハッピーな瞬間を残そうって貫いてるように見えて。それがすごい素敵だなって思うし、カッコいいなって思うんです。
私もつづ井さんをカッコいいと強く思った瞬間がある。「メタタクシー」というPodcastの中で、「絵日記を書く際のマイルール」を2つ紹介しているのを聞いた時だ。
一つ、友人のモノローグをつけないこと。つまり、友人はこの時こんなことを考えていただろうと勝手に想像しないこと。漫画としては、この時こんな風に思って突っ込んでくれていたらラクだろう、というシーンはあるが、それはしないという。
この姿勢は、愛犬の看取りを綴った『老犬とつづ井』という作品でも一貫しており、犬が人の言葉を喋ることはない。あくまで、究極的には分かり合えない種族同士という前提で描かれている。

©つづ井/文藝春秋
もう一つは、絵日記のために面白いことをしないこと。この順番が崩れると、実際の人生を絵日記にして世の中に発信している者としておかしくなってしまいそうだからだと話す。
他にも、作中では前世からの友たちに書いた内容を公開前に問題ないか確認する様子も見て取れる。
エッセイ漫画や私小説は実在の人物を扱う以上、本当に言った言葉なのか、登場する人物が描かれ方に同意しているのかなどの点が難しく、しばしば問題になる。
それ故に、このジャンル自体を素直に楽しんでいいものか、楽しむことで誰かを傷つけていないのか、心のどこかで不安に感じることがあった。
だが、つづ井さんはこういったルールについて明言してくれることで、安心して楽しめるのだ。
『裸一貫! つづ井さん』以降、本シリーズには英語の副題がついている。
『裸一貫!』には「INDEPENDENT WOMAN TUDUI(自立した女性、つづ井)」。最新作の『とびだせ! つづ井さん』では「FREE WOMAN TSUDUI SAN(自由な女性、つづ井さん)」だ。
どんどん自由になり、解放されていくつづ井さんをこれからも「推し」ていきたい。
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