2025年、日本国内でクマによる人身事故の被害者は238人に達し、死者13人と統計開始以来最悪の数値を記録しました。文藝春秋『羆(ヒグマ)を撃つ』の著者・伊藤秀倫氏が取材した事例では、北海道千歳市の山林でヒグマに襲われた59歳の男性が、決死の抵抗と機転により生還を果たしています。
千歳市の山林で起きたヒグマとの遭遇
2014年10月11日、北海道千歳市在住の真野辰彦氏(当時59)は、キノコ採りのため藤の沢の山林に入りました。CREA WEBによると、真野氏は30年間の経験を持ち、年間40回ほど同じ場所を訪れる山林の熟練者でした。しかし、この日はクマ鈴を紛失しており、午後に入ってから車から100メートルほどの茂みでヒグマと遭遇します。距離はわずか2〜3メートルでした。真野氏は反射的に持っていた高枝鎌を突き出しましたが、鎌は折れ、クマは真野氏の右腕に噛みつきました。真野氏は右腕の小指の骨を砕かれる重傷を負いました。
松の幼木を挟んだ死闘とカウンター
クマとの対峙は、高さ3メートルほどの松の幼木を挟んで繰り返されました。真野氏はCREA WEBの取材に対し、クマが回り込もうとするたびに反対側へ逃げる「追いかけっこ」のような状態が3回続いたと語っています。状況を打開するため、真野氏は向かってくるクマの顔面を右脚で蹴り上げました。しかし、このカウンターの衝撃で真野氏は両足首を負傷し、仰向けに転倒します。クマは立て続けに真野氏の頭部へ2回噛みつきました。真野氏は「人間ってこうやって死んでいくんだな」と死を覚悟したといいます。

救助を阻んだ山道の悪条件
クマが立ち去った後、真野氏はタオルで頭部の止血を行い、警察へ通報しました。しかし、現場は目印のない山中であり、正確な位置を伝えることに難航しました。CREA WEBによれば、出動した救急車は細い山道に入ることができず、一度引き返す事態となりました。最終的に、真野氏は土地勘のあるキノコ採り仲間に電話で道案内を依頼し、救急隊に発見されました。ドクターヘリで札幌市内の病院へ搬送されたのは、最初の通報から2時間が経過した後でした。病院での診断の結果、ヒグマの牙は骨にまで達しており、重傷であったことが判明しています。
繰り返される獣害と猟友会の苦悩
クマによる被害は、山で働く人々に深刻な影響を与えています。Yahoo!ニュース(文春オンライン)は、温泉施設で従業員がクマに連れ去られ死亡した事例を報じています。この施設では、犠牲となった男性が娘の給食費を大切に支払っていたという背景が遺留品から明らかになりました。この事態に対し、駆除を担う猟友会の鶴山氏は、駆除活動が本来ボランティアに近い形で行われている現状を明かしています。命の危険を伴う作業でありながら、十分な理解が得られない現場の疲弊が浮き彫りとなっています。

学習するクマと今後の獣害対策
ダイヤモンド・オンラインの報道では、クマが一度人を襲い、その遺体を食害することで「人は簡単に襲える食物である」と学習する可能性が指摘されています。過去の事例を分析すると、襲われた際に諦めずに落ち着いて抵抗することが生還に繋がったケースが散見されます。一方で、一度襲撃を経験したクマは、その後も人々に接近し続ける傾向が確認されています。2025年の被害者数が過去最多を記録する中、山林での活動にはより一層の警戒と、個別の獣害対策が求められています。