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2026-03-26 21:45:00
- B2Bのグローバルサプライチェーンにおいて、スコープ3(取引先や流通など、自社以外での温室効果ガスの排出量)の削減はいまや、企業の生き残りを賭けた競争を左右する要因となっている。
- 運輸部門の脱炭素化を推進する産官学連携イニシアチブ「スウェーデン2030事務局」の創設者兼CEOのマティアス・ゴールドマン氏が台湾で講演し、グリーン・トランスフォーメーション(GX)はすでに、単なる環境保護の次元を超えて「国家のレジリエンス」や「市場参入の前提条件」にまで発展していると語った。
- また、スウェーデンと台湾の共通点として、近接する大国との有事を想定し「エネルギーの自給自足能力を引き上げる必要がある」と強調した。
駐台スウェーデン代表のヘレーナ・レイトベルイェル(Helena Reitberger)氏は3月20日、サステナビリティ政策推進の世界的オピニオンリーダーとして知られるマティアス・ゴールドマン(Mattias Goldmann)氏を招き、北欧におけるGXの成功事例を共有する場を設けた。
ゴールドマン氏が創設者兼CEOを務める「スウェーデン2030事務局(Swedish 2030 Secretariat)」は企業の持続可能な発展を支援しており、このイニシアチブには、ボルボ(Volvo)、スカニア(Scania)、フォード(Ford)、ヒョンデ(Hyundai)、テスラ(Tesla)、BMWなど、国内外の有力企業がパートナーとして名を連ねている。
今回の講演でゴールドマン氏は、スウェーデン、ノルウェー、デンマークなど北欧諸国の事例を交えながら、GXを成功に導く5つの重要ポイントを明かした。
(1)明確な目標設定と責任の所在の明確化がカギ
ゴールドマン氏によると、GXを成功させるための最大のカギは「目標の確立」だ。例えば、彼がかつてフランス政府から委託を受け、「パリ協定」締結前に企業からの支持を取り付ける役割を担った際も、「目標の共有と対話」からアプローチしたことで、最終的に企業の賛同を得ることに成功した。この功績により、彼はのちにフランス大統領から国家功労勲章(シュヴァリエ)の称号を授与されている。
スウェーデンの二酸化炭素(CO2)排出量は世界全体の0.13%に過ぎない。だからこそ、気候変動に配慮したソリューションの模範になる、とゴールドマン氏は強調する。
スウェーデンは、2045年までのネットゼロ(温室効果ガス排出量実質ゼロ)達成という目標を掲げている。期限つきのネットゼロ目標を掲げているのはスウェーデンだけではないが、ここで1つの疑問が脳裏に浮かぶ人もいるだろう。「これほど先の目標に対して、いったい誰が責任を持つのか」と。
その点について、ゴールドマン氏はこう指摘する。
「全体的な方向性が定まった後は、各部門の役割分担をさらに明確にする必要がある。『どの産業が何を担うのか』『自分の自治体は何をすべきか』『自身の専門領域において、GXはどのような形をとるのか』といった具合だ」
国土が広く人口密度が低いスウェーデンは交通・運輸への依存度が高く、ボルボやトラック・バスメーカー大手のスカニアなどを生んだモビリティ大国でもある。そこで、同国はまず交通分野のGXから着手し、「2030年までに、2010年比でCO2排出量を70%削減する」という目標を設定した。
(2)短期的・具体的なマイルストーンを設定する
ゴールドマン氏は電気自動車(EV)の普及率でトップクラスを走るノルウェーを例に挙げた。ノルウェー政府は、初期に購入された5万台のEVに対して手厚い補助金を付与すると発表した。
「政府はEV専用のナンバープレートをつくってそこに連番の番号を表記することで、普及の進捗状況が街中の至るところで視覚的に確認できるようにした。これを見た市民は『早く買わないと補助金が減ってしまう』と焦り、購入を急いだのだ」(ゴールドマン氏)
EVが一定の普及を見せると、ノルウェーは次の目標として「2025年までに新車販売の100%をEV化」を掲げた。最終的にその比率は96.5%に達した。EV以外の新車販売を禁止していなかったにもかかわらずだ。ほかの国々が軒並み50%を超えられないなか、これは際立った成果と言えるだろう。
「ノルウェーが成功した理由は、長期的な目標を『実行可能な段階的マイルストーン』に分解したことにある」(ゴールドマン氏)
(3)企業と国民の双方に先行者利益を創出する
ゴールドマン氏は、企業の製品が極めて厳格な気候基準をクリアしていれば、より高いプレミアム(上乗せ価格)を設定できるとし、これこそが「先行者利益」だと強調した。その具体例として、彼はスカニアが世界初の「ワイヤレス充電式電動バス」を開発し、アメリカ・カリフォルニア州から250台、インドのデリーから500台の大型受注に成功したことを紹介した。
企業だけでなく、いち早くGXの波に乗った個人もまた先行者利益を享受できるのだろうか。この点について、ゴールドマン氏は再びノルウェーの事例を挙げた。
彼によると、同国は、EV普及の初期段階で、EVドライバーに対して「バス専用レーン」の走行を許可し、それによってEVオーナーは毎日の通勤時間を20〜30分も短縮できるようになった。ゴールドマン氏はこれこそまさに、政府が政策を使って国民のためにデザインした「先行者利益」であり、その結果、ノルウェーのEV保有台数はすでに100万台を突破していると語った。
(4)CO2高排出車が低排出車のコストを負担する
巨額のEV補助金に関しては、常に「教育や長期的な介護福祉に充てるべき財源(税金)をEVに使うのではないか」という国民の懸念がつきまとう。
これに対し、ゴールドマン氏は「フランスやスウェーデンでは、CO2排出量の多い『汚れた車(高排出車)』が、排出量の少ない『クリーンな車(EVなど)』の補助金の原資を負担する仕組みが構築されている」と説明する。

例えば、フランスでは、一定の排出基準を超える車両の購入(登録)時に「環境へのペナルティ(割増金)」を徴収し、その財源をそのままグリーン車両(EVなど)の補助金に充てている、とゴールドマン氏は説明。この仕組みにより、国民は「自分たちがふだん納めている税金(一般財源)が、他人のEV購入に流用されている」と不満を抱かずに済むと語った。
また、デンマークでもCO2排出量のレベルに応じた独自の課金システムを採用している。環境性能が優れている車ほど、支払う税金や手数料が安くなるというものだ。

(5)公共部門が率先して導入する
ゴールドマン氏は、政府や自治体などの公共部門が新技術を率先して導入・調達することで、個人や一企業だけでは到底生み出せない「巨大な初期市場規模」を創出できると強調した。
社会のリーダーたる公的機関が自ら変化を主導する姿を見せなければ、一般市民に「あなたたちも変わるべきだ」と説得するのは極めて難しい。
ゴールドマン氏はさらに、「『地球規模の排出量』といった概念は、一般市民にとってあまりに抽象的で実感を伴わない。しかし、『地域レベルの排出量(ローカルな環境汚染)』の改善効果は誰の目にも明らかだ。街の騒音が消え、空気が澄み渡れば、市民は自分たちの生活の質(QOL)が確実に向上したことを肌で感じ取れるのだ」と指摘した。
台湾との共通点「有事を想定したエネルギー危機管理」
ゴールドマン氏は、スウェーデンと台湾にはいくつかの共通点があると指摘する。例えば、スウェーデンが使用する化石燃料のうち、実に52%がその調達先(原産地)が不明確という点だ。
「原油は精製所を経由した時点で、どこから来たものかたどれなくなってしまう。仮に強大な隣国に対抗しなければならない事態に陥った場合、戦車やトラック、戦闘機は何を動力源として動くのか。有事が勃発したら、どうやってそれらの燃料を確保するのか。紛争に対する国家のレジリエンス(強靭性)を高めようとするなら、化石燃料の輸入に100%依存することが正しい選択でないのは明らかだ。我々は地政学的リスクを見据え、エネルギーの自給自足能力を引き上げる必要がある」(ゴールドマン氏)
国家が再生可能エネルギーや国内で自給可能なクリーンエネルギーにシフトすることは、防衛面でのレジリエンス向上にとどまらず、サステナビリティ(持続可能性)や気候の安定化といったメリットも同時にもたらす、とゴールドマン氏は言う。
「GXを推進すべき理由は山ほどある。時には、必ずしも気候変動を真っ先に持ち出す必要はないとさえ感じるほどだ。GXには、我々がまだ気づいていないような隠れたメリットが数多く存在している」(ゴールドマン氏)
台湾に存在する「巨大なGXポテンシャル」
では、企業にとってGX推進の強力なインセンティブ(原動力)はどこにあるのだろうか。その問いに対し、ゴールドマン氏は「それは『市場への参入条件』の問題だ」と答えた。もし企業の温室効果ガス排出量がB2Bの顧客が求める水準を満たしていなければ、その企業はグローバル市場から容赦なく排除されてしまうからだ。
B2Bの領域では、スコープ1(自社での直接排出)、スコープ2(他社から供給された電気・熱などの使用に伴う間接排出)、スコープ3(サプライチェーン全体での間接排出)すべてのCO2排出量の算定・報告を求める企業が急増している。このうちスコープ3には、取引先から発生する排出量も含まれる。つまり、取引先の脱炭素化の取り組みが基準に達していなければ、サプライチェーン全体の足を引っ張る「お荷物」となってしまうのだ。
また、ゴールドマン氏は台湾特有の「スクーター(バイク)通勤文化」に触れ、スクーターというモビリティ自体が必ずしも悪だとは考えていないと語った。スクーターは四輪車に比べてエネルギー消費が少なく、占有する都市スペースも小さい。これを電動化(EV化)への移行へと結びつければ、自動車を普及させるよりもはるかに高い経済効果が得られ、トランスフォーメーションの速度も速まるはずだと強調した。
台湾はかつて、電動スクーター(EVバイク)への転換で世界のトップランナーの一角を占めていた。しかし、その後、政府のインセンティブ(補助金等の優遇措置)政策が変更されたことで、電動スクーター市場の勢いは失速した。
だが、これは逆説的に言えば「政策によるインセンティブの設計さえ的確であれば、台湾には社会を急速にトランスフォームさせるだけの実行力が備わっている」という事実を見事に証明している、とゴールドマン氏は語った。
取材・執筆・責任編集:陳涵書/校閲編集:林筠騏
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