運営費交付金の継続的削減がもたらす影響
文部科学省によると、全国の国立大学に対する基盤的経費である運営費交付金は、2004年度の1兆2415億円から2025年度には1兆784億円へ減少した。北海道大学も例外ではなく、2004年度の448億円から2025年度には388億円へと減額されている。こうした予算の縮小は各部門の人員削減を余儀なくさせ、研究者の安定した雇用環境を急速に奪う要因となった。全国的に無期雇用ポストが縮小し、任期付きの不安定なポストが増加する中で、今回の問題の舞台となった化学部門でも深刻な歪みが生じていた。
講座委員会による内部基準と孤立化の手法
北大の化学部門では、教授会にあたる講座委員会が独自の内部基準をひそかに作成していた。学生を配属しないなどの決定を下し、「キャリアアップを支援する」という名目のもとで複数の准教授らをたった一人で研究する環境に追い込んだ。これらの准教授らは無期雇用だったが、関係者の証言では、教授陣の間で「1、2年で動くことを期待している」といった言葉が交わされていたとされる。一部の教員からは、終身雇用の教員に対する異動を前提とした制度運用について、一般企業の追い出し行為に相当するという批判の声が上がっている。
流動性の低い日本型雇用システムと専門家の指摘
化学分野では本来、学生を含めたチームで研究を進めることが一般的である。しかし、極端に孤立した状況に置かれた研究者が、限られたポストを獲得する競争を勝ち抜くことは極めて困難である。研究環境の問題に詳しい一般社団法人「科学・政策と社会研究室」の榎木英介代表理事は、この事態について流動性の低い日本の雇用システムが生んだ構造的な問題であると指摘している。個人の指導上の問題にとどまらず、制度的な欠陥が暴走を止められなかった要因として作用した。
相次ぐ内部からの疑問の声と今後の行方
組織的なアカハラが認定された後も、具体的な説明が行われていないことに対して現役教員からは失望や疑問の声が上がっている。論文を100本以上執筆しているような優れた研究者が冷遇される実態も明るみに出ており、身内からも「自壊」を懸念する厳しい批判が出ている。大学経営の持続可能性と研究者の人権をどのように両立させるのか、今後の対応と構造改革の成否が問われている。