世界経済の地盤沈下、貧困化を止めるには「先進国の移民活用が不可欠」とIMF。どうする日本… | Business Insider Japan

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2024-04-25 02:05:00

国際通貨基金(IMF)は、世界の「分断化」が国境を越えた経済活動の「非効率化」を促し、究極的にはそれが世界を「貧困化」させると警鐘を鳴らす。

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国際通貨基金(IMF)が4月16日に発表した「世界経済見通し」の最新版で、「分断(fragmentation)」を重要なテーマとしていることを最近の寄稿(4月22日付)で紹介した。

地政学リスクを背景に、貿易や直接投資のような国境を越えた経済活動の効率性が低下し、世界全体として見た時にアウトプット(生産量)が減って貧しくなっていく、そんなIMFの問題意識もしくはメッセージを読み取ることができた。

前回寄稿では最新版「見通し」の第1章を中心に取り上げたが、他の章では上記の議論により深く踏み込んでいる。

特に「世界経済の中期的成長の鈍化:流れを変えるには(Slowdown in global medium-term growth: What will it take to turn the tide?)」と題した第3章は、世界経済の鈍化傾向を真正面から要因分析している。

冒頭には「より低い成長率レジームへの潜在的な下方シフト(a possible downshift to a lower-growth regime)」への言及があり、世界経済の地盤沈下が専門家の間で共通認識になりつつある状況が読み取れる。

下の【図表1】は、実質GDP(国内総生産)成長率について、2000年以降の春季「世界経済見通し」における5年後予想(例えば、2029年のマーカーは、2024年4月発表の「見通し」における予測値)をプロットして、その推移を見たものだ。

図表1

【図表1】実質GDP成長率の5年後予想の推移。IMFの春季「世界経済見通し」予想値(橙線、196カ国ベース)に加え、英調査会社コンセンサス・エコノミクスの予想値(青線、88カ国ベース)を並べた。

出所:Macrobond資料より筆者作成

一目瞭然、世界経済の勢いは確実に削がれつつある。

成長率が鈍化すれば、貧困の解消は進まず、生活水準も低下していく。成長見通しが鈍化する過程では設備投資なども抑制され、それがさらに成長率の押し下げに寄与することになる。結果として、政府債務の返済が困難になる国が出てくる可能性もある。

世界経済がそうしたサイクルに陥っていく間際にあり、早急に何らかの処方せんを検討する必要がある、とIMFは第3章で強調する。

新興国の失速が世界経済の方向性を変えた

世界経済はなぜ今、そのような危機的事態に直面しているのか。

多様な議論があるものの、IMFが指摘するのは、経済成長を生み出す要因である「資本「」労働「」全要素生産性」のうち、最後の全要素生産性の著しい鈍化が足かせになっている昨今の状況だ【図表2】。

図表2

【図表2】世界の実質GDP成長率の要因分解(1995〜2023年)。

出所:Macrobond資料より筆者作成

全要素生産性(Total Factor Productivity、TFP)は、経済成長の要素を理論的に説明する際に使われる指標で、ざっくり言えば、技術革新がもたらす生産性の改善度合いを示す。

過去数十年を振り返れば、世界経済は2000年代初頭から成長を加速させ、世界金融危機が発生する2008年までその勢いが続いた。

当時のトレンドは基本的に新興国に共通で、IMFは「資本フローや生産性に影響するグローバリゼーションの盛衰を反映したもの」と説明している。

そして、2008年以降はグローバリゼーションの巻き戻し(具体的な現象としては、直接投資フローの減少)が進んでいくことになる。

海外直接投資の増加などグローバリゼーションの恩恵を受けて経済成長を果たしてきた新興国や低所得国が、米投資銀行リーマン・ブラザーズの破綻とそれに端を発する世界金融危機の発生、いわゆる「リーマン・ショック」をきっかけに勢いを失い、それが世界経済全体の失速につながった。

その後は最近に至るまで、全要素生産性および労働力の伸びの鈍化を背景に、成長率が徐々に抑制される時期が続いた【図表3】。

図表3

【図表3】新興国の実質GDP成長率の要因分解(1995〜2023年)。

出所:Macrobond資料より筆者作成

新興国の成長率を示す上の【図表3】と、世界の成長率を示した先の【図表2】を見比べると、両者の軌道(グラフの形状)がおおよそ一致していることが分かる。

世界金融危機以降の新興国の失速が、世界経済の行く先を規定してきたと言ってもあながち間違いとは言えないだろう。

一方、先進国では2000年代初頭の時点ですでに成長率の鈍化が始まっていた

1990年代後半をピークに全要素生産性の伸びは顕著に鈍化し、高齢化を背景とする労働力の縮小も相まって、成長率は大幅に切り下がった【図表4】。

図表4

【図表4】先進国の実質GDP成長率の要因分解(1995〜2023年)。

出所:Macrobond資料より筆者作成

IMFは、いくつかの大規模な国家経済(カナダ、中国、イギリス、アメリカ)が2008年頃にこの(成長率の大幅低下の)転換点を経験したと記述している。

また、15歳から64歳までの労働年齢人口は2008年以降、世界の約92%で伸びが鈍化しており、約44%では鈍化どころか減少に転じているという。

世界経済の低成長を回避するには

IMFは第3章の結論として、先進国や新興国における労働力人口の減少、資本蓄積の低迷とその結果としての全要素生産性の伸び鈍化が続く限り、世界経済の成長率はパンデミック以前の平均を大幅に下回ると結ぶ。

そうした展開を回避するため、生産性のより高いセクターに労働力や資本を分配する政策が望まれるとIMFは提言するものの、言うは易く行うは難しで、期待されるような政策立案や運用を機動的に実行に移せる国はそう多くはない。

IMFが言及する中で、実現性と有効性の両方を想定できるのは、既存の人口動態を最大限生かすことで労働力の制約を緩和する政策くらいだろうか。代表的なところでは、高齢者の活用や教育機会の拡大、育児支援の拡充、女性参加の促進などがそれに該当する。

他に、人工知能(AI)の活用を通じて得られる利益が公平に再分配されるよう、制度的な工夫が求められるとの提言も盛り込まれている。

いずれにしても、それらの政策が遂行される限りにおいて、「世界経済の見通し全てが暗いというわけではない(The global medium-term prospects are not all doom)」と、IMFは第3章の議論を収束させている。

意外なことに日本への言及がない

先進国のうち、ここまで紹介してきたような第3章の議論から最も学ばねならないのは、おそらく日本だと思われる。

人口動態を主な要因として全要素生産性の伸びが鈍化し、世界経済の成長率が低下していくというIMFの懸念に触れ、そのうち具体的事例として日本が登場するのではないかと読み進めたが、参考文献含め22ページに及ぶ第3章の記述に「日本(Japan)」という単語は一度も出てこなかった

前々節で触れたように、世界金融危機の前後に労働力減少へと向かう転換点を経験した大国として、カナダ、中国、イギリス、アメリカの名前が挙がるものの、そのくだりですら日本への言及はなかった。

1990年代後半にはすでに労働力人口の減少が始まり、経済の失速と停滞を相当以前から経験してきた日本は、2008年以降に減速に転じた世界経済という第3章の文脈においては分析材料になり得ないということだろうか。

実際、IMFの提言するような高齢者の活用や女性参加の促進などの施策は日本ではすでに着手済みであり、そうした手段を通じても停滞に歯止めのかからない日本については、別途の分析検討が必要なのかもしれない。

日本の実情に目を向けると、労働力人口の減少による経済活動の制約がそこかしこに生じ、名目賃金の上昇を通じて一般物価が押し上げられ、実質GDP成長率が押し下げられる様子が眼前に広がりつつある。

高齢者の活用や女性の参加促進だけでテコ入れは十分なのか。AI活用で穴が埋まる勝算があるのか。もっと直接的な一手が必要なのではないか。

「先進国に移民活用の必要性」とIMF

IMFは本稿で取り上げた第3章で、「世界的な労働供給の不均衡は、先進国における移民労働者の重要性を示唆している」と指摘している。

先進国における移民政策の必要性を提言した上で、2030年に予想される先進国の全労働力人口の1%相当は移民活用によって賄(まかな)えるという定量的な予想まで盛り込んである。また、それによって世界経済の成長率を0.2ポイント押し上げることができるとの試算も提示する。

正直なところ、筆者は日本経済の実情を他の職業の方々以上に知り得る立場にいながらも、全くもって移民推進派ではない。政治的に推進するにしても、国民的議論を経ずして移民受け入れを一朝一夕に実現できるわけでもない……のだが、経済分析を詰めるほどその必要性を痛感させられるという厳しい現実がある。

※寄稿は個人的見解であり、所属組織とは無関係です。

#世界経済の地盤沈下貧困化を止めるには先進国の移民活用が不可欠とIMFどうする日本 #Business #Insider #Japan

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