ベトナムの銀行業界は、経済の急成長に伴う資本需要に対応するため、今後1年余りで約70億ドル規模の株式売却を計画している。この動きは、これまで厳しく制限されてきた同国の金融セクターに対し、海外投資家が関与を強める新たな機会を生み出している。
ベトナムの銀行による70億ドルの資本調達計画
ベトナムの銀行各行は、急激な経済成長を背景とした資金需要の高まりを受け、大規模な資本増強に動いている。ロイターの算出によると、これらの銀行が計画する株式売却の総額は、2026年末までに約70億ドルに達する見込みである。フィッチ・レーティングスは、これがベトナムの銀行業界にとって過去最大規模の資本調達になると指摘している。
この動きを後押ししているのは、2030年までにバーゼルIIIの厳格な資本基準への移行を目指す規制当局の要請と、急速な貸出残高の拡大である。Hoa Sen大学の金融講師であるQuynh Nguyen氏は、ベトナムが 次の成長段階をどのように資金調達するかを再考し始めている
と分析する一方、この規制緩和は限定的であり、全面的な自由化には至っていないと注意を促している。また、中央銀行の8月の内部報告書によれば、年間10%以上の経済成長目標が資産価格のインフレを招いており、特に融資の約4分の1を占める不動産セクターでは不良債権が急速に増加している状況がある。

政策面では、海外からの借り入れ上限が今年11%引き上げられ、61億ドルに達した。この上限は今後さらに引き上げられる可能性がある。金融省はまた、2014年以来となる海外での政府債券発行も検討している。FiinRatingsのデータによると、ベトナムの銀行や企業は今年、総額53億ドルの海外借り入れ計画を公表している。
海外投資家の関心と戦略的提携の動き
これまでベトナムの銀行セクターは、外国人持ち株比率が合計30%、単独株主では20%に制限されるなど、厳しい規制下にあった。しかし、特定の銀行に対しては、外国人持ち株上限を49%まで引き上げることが認められるケースも出てきている。匿名を条件に語った関係者によると、ベトナムの銀行と交渉を進める複数の海外金融機関は、投資収益の確保に加え、保険商品などの成長分野における消費者市場へのアクセス拡大をその理由に挙げている。
主要な案件としては以下の動きが報じられている。
- BIDV(ベトナム投資開発銀行):国内第2位の規模を誇る同銀行は、3月に約3%の株式を数十名の投資家に売却済みであり、来年末までにさらに約11%の売却を計画している。公開開示資料によれば、この計画による調達額は約14億ドルに達する見込みである。筆頭海外株主である韓国のKEBハナ銀行は、最初の売却には参加しなかったものの、今回の計画への参加を検討していると広報担当者が述べている。
- HDBank:年内に10.7%の株式売却を計画している。同銀行はベトナム最大の民間航空会社であるベトジェット(Vietjet)と関連があり、現在、外国人持ち株比率を49%まで引き上げることが許可されている。
経済成長と資本効率をめぐる分析
この大規模な資本調達が銀行の安全性にどれほど寄与するかについては、慎重な見方も示されている。フィッチのWillie Tanoto氏は、ベトナムの成長ストーリーが維持されることを前提としつつも、小規模な銀行間での提携チャンスを指摘する一方で、今回の増資が 資本の質を劇的に改善する可能性は低い との見方を示した。その理由として、調達された資金が即座に新たな融資へと急速に展開されるため、多くの銀行において資本構成が実質的に改善されない可能性を挙げている。フィッチは、今後数年間でさらなる大規模な資本注入が必要になる可能性が高いと述べている。

市場分析においても、単にドル建ての調達額が大きく見えるだけでなく、貸出残高の成長速度が資本の蓄積を上回れば、自己資本比率はわずかな向上にとどまる可能性があると指摘されている。これが今後の株主にとって、継続的な希薄化懸念として働き、成長性が評価額に十分に反映されない要因となる恐れもある。