NHKが23日に放送した「未解決事件 File.19 北関東連続幼女誘拐・殺人事件」は、1992年に福岡県飯塚市で起きた「飯塚事件」に焦点を当て、当時の捜査と司法判断に重大な疑問を投げかけました。死刑が執行された久間三千年・元死刑囚の事件を再検証し、当時のDNA鑑定の不透明さを浮き彫りにしたことで、遺族による3回目の再審請求に向けた動きが加速しています。
飯塚事件で用いられたMCT118法の信頼性
番組が飯塚事件を取り上げた最大の理由は、久間三千年・元死刑囚の有罪判決の根拠となった「MCT118法」によるDNA鑑定への疑念にあります。この鑑定手法は、警察庁の科学警察研究所が独自に開発し1989年に導入したものですが、専門家の間では技術的な精度が極めて低かったと指摘されています。番組の取材に応じた米国の法医学者は、MCT118法では犯人を断定することは不可能であると断言しました。2008年に死刑が執行された久間元死刑囚は、最期まで無実を訴え再鑑定を希望していましたが、その願いが司法に届くことはありませんでした。
足利事件と重なる鑑定の構図
MCT118法の不備は、栃木県足利市で起きた「北関東連続幼女誘拐・殺人事件」のひとつ、松田真実ちゃん殺害事件でも露呈しています。この事件で犯人とされた菅家利和さんは、同法による鑑定を根拠に一度は無期懲役を言い渡されました。しかし、2010年になって精度の高いSTR法による再鑑定が行われ、無実が証明されました。番組の調査によれば、飯塚事件で久間元死刑囚の鑑定を担当した科警研の技官3人のうち2人が、菅家さんの事件でも鑑定に関与していたことが判明しています。さらに、そのうち1人はMCT118法の事実上の開発者であったことも明らかになりました。
ネガフィルムに見る捜査の不自然な実態
取材班は、飯塚事件の証拠であるMCT118法の結果を示すネガフィルムを詳細に分析しました。その結果、フィルムが不自然に切り取られている事実を確認しています。このネガフィルムの検証を依頼された筑波大学の本田克也名誉教授は、久間元死刑囚のDNAは犯人のものとは一致しないとの見解を示しました。本田氏は「鑑定人は違うことが分かっていた」と指摘し、意図的な隠蔽の可能性を示唆しています。また、元徳島県警の藤田義彦氏も、フィルムを見て「私なら逮捕は見送る」と語るなど、捜査機関が決定的な証拠をどのように扱っていたのかが問われています。
元警察庁長官が語った当時の導入背景
番組では、MCT118法の導入を刑事局長時代に承認した國松孝次・元警察庁長官へのインタビューも行われました。國松氏は、当時のDNA鑑定について「完璧無比だとは誰も思っていなかった」と率直に認める一方、導入が時期尚早であったかという問いには強く否定しました。しかし、完璧ではない技術が捜査現場で事実上の「絶対的証拠」として盲信され、久間元死刑囚のほかにも6人が有罪判決を受けている現状があります。科学的根拠が不十分なまま進められた捜査が、取り返しのつかない人権侵害を生んだ事実は重いと言わざるを得ません。
死刑執行後の再審請求が突きつける司法の課題
放送後、久間元死刑囚の遺族と弁護団が3回目の再審請求を行う方針であることが明らかになりました。刑事裁判の歴史において、死刑執行後に再審が認められた例は未だ存在しません。しかし、番組が提示した新たな証拠や検証結果は、司法機関にとって無視できない重みを持っています。久間元死刑囚が切望したSTR法による再鑑定が実現していれば、結果は異なっていたのでしょうか。今回の放送は、司法が過去の誤りをどう正すのか、そのあり方を社会全体に問いかけています。
