江戸時代初期の大野出目家・洞白満喬作「白式尉」が里帰り
行方不明となっていた上杉家伝来の能面「翁面」が京都で見つかり、山形県の米沢市上杉博物館に収蔵された。市が今年度、京都の古美術商から金剛流宗家への打診を経て購入したもので、上杉家の能面を市が収蔵するのはこれが初めてとなる。
明治期以降に散逸した上杉家の貴重な能道具が一式で帰還
米沢市が収蔵したのは、翁面2面と唐草蒔絵翁面箱、上杉家所蔵を示す貼り札が残る外箱の一式である。江戸時代の能は武士のための芸能として幕藩体制に組み込まれ、米沢藩の上杉家でも歴代藩主が愛好して多くの能道具を所有していた。しかし明治期以降は散逸し、その多くが行方不明となっていた。
今回見つかった面は、同博物館が2021年に開いた企画展「上杉家伝来 能面・能装束」の図録において、1929年撮影の写真として紹介されていたものの、長らく所在は分からないままだった。
京都の古美術商と金剛流宗家を経て実現した異例の購入
今回の発見は、京都の古美術商から、能のシテ方5流派の一つである金剛流宗家に打診があったことから動き出した。その話が米沢金剛会から市へと伝えられ、今年度の購入に至った。市所有の文化財が実際の舞台で使用されることも今回が初めてであり、貴重な文化財が再び地元へ戻る形となった。
若宗家による鑑賞講座と学芸員が語る歴史的意義
本番を控えた9月22日には、金剛流若宗家の金剛龍謹さんによる能「翁」の鑑賞講座が開かれ、約90人が参加した。自身が面を付けて初めて舞台で舞った演目が「翁」だったことや、素顔で登場して舞った後に面を付ける流れを示し、神の力を得て神の姿になりかわる瞬間を見てもらう信仰の意味合いが強いと説明した。また、上杉家伝来の面について「使わせていただけるのはありがたい」と期待を込めている。
学芸員の花田美穂さんは、大切に守り継いできた翁面が再び米沢の能舞台で祝福の舞を支えるというまれな機会であるとし、多くの人に歴史的な舞台を見てほしいと呼びかけている。
11月3日の伝国の杜公演で人間国宝が「翁」を披露
11月3日に同博物館が入る「伝国の杜」で開かれる公演では、金剛流二十六世宗家で人間国宝の金剛永謹さんが「翁」を披露する。五穀豊穣や国家安寧などを願うこの演目では、収蔵された2面のうち、江戸時代初期に大野出目家の洞白満喬が制作したとみられる「白式尉」が使用される。白式尉は、長いあごひげや豊かなまゆげが特徴であり、口元を動かすこともできる作りになっている。