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2024-04-18 04:00:00

人的資本経営、ダイバーシティ推進、気候変動への対応……企業はいま、多くの課題に複数の視点から向き合うことが求められている。

“確固たる正解”が存在しない中、より良い方向に導くための鍵となるのが「対話」だ。

2023年秋に公開された『Dance with the Issue:電力とわたしたちのダイアローグ』は、対話を促す仕掛けが組み込まれた斬新な映像作品として、ビジネスパーソンの間で話題となった。

本作品の監督であるブラックスターレーベルの田村祥宏氏と、社会性と経済性の両立を目指す「ゼブラ企業」を支援するゼブラアンドカンパニー代表・阿座上陽平氏によるセッションを通して、対話とは何か、対話を通じていかにして「わかりあえなさ」と向き合うべきかを考えていく。

※2024年3月8日、国際女性デーに開催された「Wellbeing conference──これからの社会と私たちのウェルビーイング」(Business Insider Japan、MASHING UP共催)のセッションレポートです。

対話や内省を促す、これまでにない映画

特定非営利活動法人ブラックスターレーベル 代表理事、イグジットフィルム 代表、映画監督の田村祥宏氏。映画的な演出と個人としての作家性を大切にしたヴィジュアルストーリーテリングを得意とし、映画制作、広告、コンテンツマーケティングを中心に、幅広い作品を手掛ける。

撮影:中山実華

──なぜ、エネルギー問題や気候変動を扱った映画を制作しようと思われたんですか?

田村:最初に「コンテンポラリーダンス」と「複雑な社会課題」を掛け合わせたらどうか、というアイデアが浮かびました。

僕自身コンテンポラリーダンスが好きなのですが、それは答えのないアートだから。鑑賞した後も、いろいろな意味を考え続けられるんです。

“共通性のある社会課題を扱った映像作品で、観た人みんなで考える時間を持つことができたら、アートを通じて社会に新たな価値をインストールできるかもしれない”──そうひらめいて、最も複雑な社会課題の一つであるエネルギー問題と掛け合わせることにしました。

エネルギー問題は「詰んでいる」?

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『Dance with the Issue:電力とわたしたちのダイアローグ』

©︎2023 ブラックスターレーベル

──本作のキーワードの一つに「対話」があります。作品に対話や内省を組み込む仕掛けは、とても斬新ですね。

田村:『Dance with the Issue:電力とわたしたちのダイアローグ』では、アートフィルムとドキュメンタリーが組み合わさった約60分の本編上映、その後約20分のリフレクション(対話・内省)パートを設けています。

エネルギー問題って、現状、日本においては“詰んでいる”と言っても過言ではなく、自分はどうしたいのか自ら答えを見つけに行くしかない。それを感じ取る時間も作品に包含し、最後に対話するという流れです。

──なぜ今、対話が必要なのでしょう?

田村:多くの人が関係して巻き起こっている社会問題は、立場も意見もさまざまで、何が正しくて何が正しくないかを決めるのは極めて難しいですよね。

そんな中で落としどころを見つけるには、みんなが対等な場に立って何を考えているのか、どうしたいのかを語り合うしかないと思うんです。

作中にも登場している経済産業省や東京電力の方の話を聞いた際、揃って対話の必要性を語られたのも、とても印象的でした。

座席の上:映画として(一方的に)情報を渡されると、それが自分の内側にこもってしまうんですよね。でも、対話によって人に話を聞いてもらったり相手の話を聞いたりすると、「自分の捉え方は人と違うかもしれない」という気づきが生まれて、新しい解釈につながります。

だからこそ、体験としての対話はぜひ組み込むべきだと考えていました。

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Zebras and Company 共同創業者/代表取締役の阿座上陽平氏。「ゼブラ企業」という概念を社会に実装することを掲げ、経済性と社会性を両立するゼブラ企業を増やしていくための活動を展開。企業への投資や経営の伴走、対話を重視した組織変革など幅広く手がける。田村氏が立ち上げたブラックスターレーベルの理事も務め、『Dance with the Issue:電力とわたしたちのダイアローグ』に関するさまざまなアドバイスを行う。

撮影:中山実華

──実際のリフレクションパートでは、参加者はどんな雰囲気でしたか。

田村:特にファシリテーションがなくても、誰かが話し始めると一気に対話が進んでいましたね。

ただ鑑賞しただけだと、すごく気持ちがモヤモヤしますから。それは、作品というよりエネルギー問題そのものが持つモヤモヤです。

でも、そこに対話があると「この人はそう思うのか」「あのダンスはそう見えるのか」と、話が広がっていく。世代や職業が違っても、自分の感じたことなら語れるんです。

中にはさらに一歩進んで「自分のコミュニティでも上映会をしたい」「研修に使いたい」というお声をいただいたりもしました。

意見が異なる人同士は、わかりあえるのか

セッションのモデレーターは、Business Insider Japan 共同編集長/ブランドディレクターの高阪のぞみ(写真左)が務めた。

セッションのモデレーターは、Business Insider Japan 共同編集長/ブランドディレクターの高阪のぞみ(写真左)が務めた。

撮影:中山実華

──“多様性の時代”と言われる一方で“同調圧力”という言葉もあるように、自分が「正しい」と思えることを相手に伝え、納得してもらうのは非常に難しいものです。どうすれば、立場や意見が違う人同士でも対話を通じてわかりあえると思いますか?

座席の上:私は、対話で気をつけるべきは「恐れ」だと思っています。相手は何を恐れていてどんな思いがあるのか、自分はどんな恐れを感じているのか。

例えば、自分が正しいと信じている考えや思いを否定されるかもしれないと感じるのは、恐れですよね。

自分の正しさと相手の正しさが同じとは限らないと理解したうえで、なぜその違いがあるのかを探っていくのが対話であり、自分自身の恐れも開示しながら話し合っていくことが大切だと思います。

田村:今回の映画では新エネルギーと旧エネルギーそれぞれの立場の人たちが出てきますが、そのどちらもが自分たちの正しさのあり方に揺らぐ瞬間があります。

でも、その“揺らぎ”こそが対話には大切で、相手の気持ちに立つ瞬間なくして、対話は成立しづらいと感じています。

──ビジネスシーンでは、対話よりも対立が起きるケースが少なくありません。なぜそうなってしまうのでしょうか。

座席の上:「肩書きや役割を通して人を見てしまうから」ではないでしょうか。

誰にでもそれぞれのバックグラウンドがあるのに、ビジネスとなると、社長だから、投資家だから……といった目で相手を見てしまいがちです。

それらを一旦捨てて、相手自身を見つめ、自分の伝えたい考えを受け取ってもらえるように“個人として向き合う”ことが、対立ではなく対話につながる第一歩だと思います。

対話の扉を開くには

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撮影:中山実華

──これまでのお話を聞いて、「対話は新しい関係性を構築していくこと」と言えるのかもしれないと感じました。最後に、改めてお二人の思いを聞かせてください。

田村:これまでずっと映画や映像制作に携わってきて、映画や映像はもっと社会に利活用されるべきだと思っています。

実は今朝も、とある高校で映画の上映と対話のワークショップを行ってきたのですが、教育現場でももっと広めていきたいですね。

座席の上:経営学者の宇田川元一さんが「自分たちが持っているボールをテーブルに置いて、それぞれから切り離そう」と言っています。これは、肩書を外して対話するというアイデアに近しいんですが、対立から対話へという発想において重要だと思います。

例えば誰かがミスをしたとして、それに対して怒るのではなく、システムを解決しようとする。

「私は悪くない」「あなたが悪い」の応酬では対立しか生まれませんが、一旦お互いから切り離して「この課題について話し合おう」と言えれば、そこから対話が広がっていきます。

自分の内側や近くにあって見えづらくなっている“本質”は、一度切り離してみると構造的に捉えられるようになります。そうやって課題を解決していくことが、対立から対話へ移る鍵ではないでしょうか。


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撮影:中山実華

(文:黒田あき、編集:中島日和)

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