東京大学医科学研究所などの研究チームは、日本人の大腸がん発症に「コリバクチン」を産生する特定の腸内細菌が深く関与していることを解明した。21歳から40歳の若年層では7割にこの細菌によるDNA損傷の痕跡が認められ、幼少期からの長期的な細菌感染が発がんの引き金となっている可能性が示された。
日本人大腸がん患者の約半数でコリバクチン由来の変異を確認
東京大学医科学研究所、大阪大学、国立がん研究センター、東京科学大学の研究チームが科学誌「Nature Genetics」で発表した研究結果によると、日本人の大腸がん発症において、コリバクチンという毒素を生成する特殊な大腸菌が重要な役割を果たしていることが判明した。ITmediaが報じた。研究チームは日本人大腸がん患者200人を対象に全ゲノム解析を実施。その結果、非高変異型症例の44.8%において、コリバクチンがDNAを損傷させた痕跡である「変異シグネチャー」が確認された。この割合は、欧米を含む他国での報告が5〜20%程度であることと比較して、日本人の症例において顕著に高い数値である。
21歳から40歳の若年層で高まる細菌の影響
特に若い世代における大腸がんの発症メカニズムについて、本研究は重要な知見を示した。21歳から40歳で発症した患者を分析したところ、実に70%(10人中7人)でコリバクチンに起因するDNA変異が認められた。この毒素によるダメージは、がん抑制遺伝子やがん遺伝子として知られる「APC」「BRAF」「TP53」といったドライバー遺伝子にまで及んでいる。研究チームの解析では、APC遺伝子における発がんの端緒となる最初の遺伝子異常が、10歳未満という幼少期に発生していた可能性が示唆された。これは、子供の頃から体内に存在する特定の細菌が、数十年にわたってDNAを傷つけ続けることで、成人後の大腸がん発症につながるプロセスを浮き彫りにしている。
1965年以降の世代で見られる遺伝子変異の傾向
コリバクチンに関連する遺伝子変異は、1965年以降に生まれた世代で多く見られるという特徴がある。近年、若年層での大腸がん増加が課題となっているが、この細菌由来の変異がその増加傾向と関連している可能性が指摘された。コリバクチン産生大腸菌が放つ毒素は、細胞のDNAを直接的に傷つけることで、発がんまでの一連の病理学的メカニズムを駆動する。腸内細菌のAI解析を用いた分類では、大腸がんは大きく4つのグループに分けられることが分かった。これまで発がんに関与すると注目されてきたフソバクテリウム属などの細菌とは異なり、コリバクチンを原因とするタイプは、別の発がんルートをたどることも明らかになっている。
- 研究対象:日本人大腸がん患者200人
- コリバクチン由来変異の検出率:非高変異型症例の44.8%
- 21歳〜40歳の検出率:70%
- 関与遺伝子:APC、BRAF、TP53など
今後の大腸がん予防と研究の展望
今回の研究は、腸内細菌叢の構成と発がんリスクの関連を分子レベルで解明した意義が大きい。特に、幼少期からの細菌感染が長期間かけてがんを形成するという事実は、将来的な大腸がんの予防戦略や早期発見の手法に影響を与える可能性がある。研究チームは、腸内細菌のAI解析を通じて大腸がんをタイプ分けできることを示しており、今後はそれぞれのタイプに応じた個別化医療や、特定の細菌を標的とした新たな治療アプローチの開発が期待される。コリバクチン産生菌が日本人の若年性大腸がんにおいて支配的なリスク因子となっている事実は、今後の公衆衛生上の議論においても重要な論点となるだろう。